大相撲の貴乃花親方(46=元横綱)が25日、日本相撲協会に退職の届け出を提出したことを明らかにした。

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貴乃花親方は、孤立していた。元横綱日馬富士関による暴行事件からの一連の騒動の責任から、6月に貴乃花一門は消滅。内閣府に告発状を提出した、かたくなな態度に、旧貴乃花一門のある親方は「今だから言えるけど」と前置きした上で「何をするか分からない恐ろしさを感じた。周りが止めても聞かなかった」と振り返る。一門内だけではなく、一門の枠を超えて支持していた親方衆の心も離れた。誰も助言できない、誰の助言も聞かない「裸の王様」状態になっていた。

自らを「一兵卒」と呼んだが、相撲協会執行部は、そう見ていなかった。5つある一門のいずれかに所属しなければならないという決定事項は、協会から各一門に助成金が支給されている以上、無所属の親方がいるのは体裁が悪いというのが理由。だが、反乱分子ともいえる貴乃花親方を、おとなしくしているうちに封じ込めるための案と感じた親方衆は少なくない。仮に無所属のままなら、部屋取りつぶしなどの案も出ていた。いずれにしても、貴乃花親方がこれまで通りに活動することは、難しい状況となる可能性はあった。

今回は相撲界特有の「ムラ社会」であることが悪い方に出た。親方衆は、現役時代の番付が、その後の親方としての発言力にも比例する傾向にある。一致団結している時期は、指示系統が明確で問題解決も早い。だが歩んできた道のりも、性格も熟知する近い関係性だからこそ、こじれると、とことんこじれてしまう。仕事に対する取り組み方で意見の相違が出ると、意固地になりがちでもある。

この日の貴乃花親方の会見で、随所に現執行部との対立構造が見えた。今後の相撲協会に期待することを問われ「かなわぬものだと思う」と一刀両断。元日馬富士関の暴行事件も「第三者委員会ができなかったことが残念」などと、随所に確執の深さをのぞかせた。

阿武松親方は8月上旬に一門への所属義務について通達したというが、23日まで行われた秋場所中、中堅親方がこれを電話で伝えると「本当ですか?」と驚いていた。一方は伝えたつもりでも、もう一方には伝わらない。意思疎通もままならず孤立化が進む。希代のスーパースターを失うような確執、孤立が生まれる組織なら、いっそのこと組織運営のプロに任せるべき。そんな選択肢も本気で考える時代に突入しているのかもしれない。【高田文太】