古い話だが、どうしても記述しておきたいと思った。が、三十数年前の話ゆえ記憶が定かでないのだ。どのテレビ局の企画だったのかも忘れてしまった。番組の内容は、力道山が田中敬子さんと結婚した際の引き出物を、私が刑事よろしく探すというもの。

JALの客室乗務員だった敬子さんが、力道山に見初められゴールイン。力道山の全盛期、引き出物はさぞかし高級な品だったに違いない。まず、結婚式の出席者にあたる。

3人ばかりの出席者も古い話なので記憶がぼんやり、1人だけ漆塗りの「宝石箱」だったという。が、だれもその「宝石箱」を持たず。豪華な挙式、各界を代表する人たちが出席した。驚いたのは、有名な外国人レスラーも招待されていたことだ。

あのルー・テーズも招待され、出席。1時間番組のエンディングは、隅田川のベンチに私と引退したルー・テーズが座って、力道山の思い出話をする映像だった。あの鉄人と話ができただけでも私は光栄で幸運だった。プロレス人気は沸騰していて、馬場と猪木が覇権争いをしていた頃だ。

ブラジルでスカウトされた猪木は、力道山の付け人。力道山は猪木を呼ぶ時、「アゴ」と言ったそうだ。後に私は敬子夫人から直接耳にした。あの偉大な猪木も力道山のもとで修行を重ねた。幾度も猪木は食事の席に敬子夫人を招待されていて、私も招かれた。故内田裕也氏をはじめ有名人が幾人もいたが、いつも中心は敬子夫人であられた。

ルー・テーズは、「力道山は天才であった」と私に語った。意外にそれほど大きな身体でなかった鉄人、プロレスの極意を身にまとわれたレスラーであった。力道山の死を心から悲しんでおられたのが印象的で、私は忘れない。太い毛むくじゃらの腕がすごかった。

しかし、「宝石箱」の記憶をルー・テーズも失っていた。気前のいい人たちばかりが結婚式に出席し、さっさと人にプレゼントしたのだろうか。