今年の夏、リトルシニア日本選手権3回戦の瑞穂―東北楽天が印象深かった。瑞穂・内田開音と東北楽天・大友陸、両投手の投げ合いは球数制限を迎え、継投策になっても無失点が続き、8回からタイブレークに突入。1死満塁から始まる攻撃で先行の東北楽天は犠飛で1点先制。3番打者から始まる瑞穂は有利に思えたが、連続三振に倒れ試合が終わった。

 試合展開もすさまじかったが、大田スタジアムの三塁側、西東京支部の瑞穂の応援が耳を離れない。声を出しての応援は禁じられていた。ベンチに入れなかった部員や保護者の熱気は回を追うごとに高まり、リズムを合わせての手拍子となっていった。瑞穂の祭りのような雰囲気。応援人数の少ない東北楽天の選手には不利なようにも思えた。

 ただし、不思議な手拍子だった。盛大に盛り上がっていても、相手投手が投げようとすると、一瞬静まる。再びボリュームが上がるが、投げようとするとまた静まる。明らかに投手の投げるタイミングを気遣っていた。

 リトルシニアの大会規定細則に明文化されている。「監督、指導者に対する注意事項」の(7)に応援団に対する申し入れがあり「投手が投球動作を起こすと同時に、歓声を挙げることがあるが、その度合いが過ぎると判断したときは、当該審判員または大会役員が監督経由で注意を与える」となっている。応援席にまで気を使いすぎかな思っていたが、激闘の最中に相手にも気遣う応援に包まれると、炎天下で試合する両チームをたたえているように聞こえだした。熱くなりすぎてもおかしくない試合で、対戦相手をも思いやる応援だった。

 だからなのか。サヨナラ勝ちを喜ぶ楽天ナインに、主将が声をかけると、一瞬にして整列した。涙が止まらない瑞穂ナインへの思いやりだった。

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 明治神宮大会の高校の部で、大阪桐蔭の選手が相手投手が投球動作に入っても大声で叫ぶのをやめないと、対戦校のクラークの監督が、ベンチからしっせきした。野球規則にそれを禁じるルールはないが、声を発するタイミングはバッテリーのサインや捕手の構えの位置を知らせる行為にもつながりかねないので、相手監督が注意するのは理解できる。もっとも、他のやり方で伝えるべきだったとも思うが。

 中学硬式野球ではヤングリーグが、大会規定細則の禁止事項として「相手の投手が投球時に、ベンチ全員が大声で投手をけん制するような言葉」と具体的に禁じている。野球はチームプレーだから声の連係や、味方への励ましの声は大切な「技術」だと思っている。ただし、相手をだますような声を発する「フェイク」を高等技術だと思っているチームもある。間違った技術よりも味方へも、相手へも思いやりを持ちたい。真夏の応援席が教えてくれた。【久我悟】