水島新司氏の野球漫画「ドカベン」は高校野球を舞台にした名作なのだが、物語は中学軟式野球から始まっている。主人公山田太郎が肩から提げた白い通学カバンは、大きな弁当箱(たぶんアルマイト製)で占められていた。だからニックネームは「ドカベン」。実家が貧しいから白米だけのお弁当だった。旬の季節にはさんまの丸焼きが乗る。それを同僚の岩鬼正美が、おいしそうに食べるのが忘れられない。

さて、令和の中学球児の〝弁当箱〟も大きい。というか、多くがクーラーボックスに弁当箱を入れて、運んでいる。体を大きくする「食トレ」の一環で、大きめの弁当箱に、練習の合間に食べる補食用のおにぎりや果物、練習後に飲むプロテインなどが入っている。蓄冷材があれば、真夏でも腐りにくいから便利だ。次男のチームは日替わりで容器や袋に凍らせた氷を持参して、チームのクーラーボックスに提供している。いろんなものを入れるから、それなりの大きさが必要で、自転車のかごに入るのが目安になる。

クーラーボックスは頑丈なのがいい。選手は弁当を食べるとき、椅子代わりにするからだ。練習場やグラウンドには、全員分のベンチはないから、選手には大事なアイテムだ。グローブやバット、スパイクとともに、クーラーボックスの選び方も大事だと、私は思っている。同じような色合いが多いので、選手同士で間違うこともある。

クーラーボックスの普及のせいだけではないだろうが、厳しい食トレを課すチームもある。細身より肉付きがあるほうが、ボールは飛ぶし、投球の威力は増す。たくさん食べるのは大事なのだが、やりすぎると体より先に不満が大きくなることもある。1日1升(1・8リットル)の白米を義務付けたあるチームは、選手と保護者が耐えきれず、指導者の交代騒動にまで発展した。何事も行きすぎるとバランスを崩すし、日本人が大事にする「もったいない」の精神は踏みにじれない。(食べ物の上に座るなんて! とも、怒られそうだが)

進学後のチーム選びのため、1月最初の3連休は各チームで体験会が行われた。次男のチームでも、昼食時になると、数人の母親が選手の弁当箱をチェックしていた。おそろいで使っているのは、2リットルの大容量なので驚かれるのだが「あくまで目安でつめる量は自由です」などと、スタッフが説明していた。やってきた小学6年生のお弁当箱は、ソフトタイプの保冷バッグに入れているのが多かった。

クーラーボックスの使い方も中身も確認をお忘れなく。以上、「令和のドカベン事情」でした。【久我悟】