どこの少年野球を運営するリーグや連盟が抱える問題の1つに、審判の人手不足があります。私は息子が学童野球のころから、リーグの審判講習会を受講して、練習試合やリーグ戦の塁審や時には球審を引き受けてきました。それでも、正式な資格を持っているわけではなく、細かい動きはおぼつかないし、年々体力が落ちているのを痛感しています。塁審ならなんとか、息子が中学進学後に硬式野球を始めると、球審なんてとてもとても…。と、思っていました。
ところが、このたび、チームの審判員から「春に向けて球審も経験してください」と依頼され、急きょ練習試合のマスクをかぶることに。レガース、プロテクターはチームの物を借りて、股間を守るカップ型の防具は、学童時代から自分のバッグに入れていた。周囲は「やる気満々ですね」というけれど、カップを支えるパンツやサポーターを持っていません。「無しでやりますか」と言われたけど、万が一のために下着の内側に挟み込むように装着。下半身が落ち着かないまま、55歳の冬にして硬式野球の球審に。高校時代の紅白戦以来、40年ぶりに「プレイッ !! 」
試合は1年生チームの対戦でした。最速110㌔ぐらいなので、恐怖を感じるほどではなかったけど、問題は変化球。学童は変化球禁止だったから、まさに初体験。高めに浮き上がって落ちてくるカーブの球筋と一緒に、腰が浮き上がってしまいます。球審は頭を動かさず球筋を目で追う「トラッキング」という技術が求められます。なのに、カーブに腰が浮き、チェンジアップに前のめりになる。初心者丸出しでも、試合は何とか進みます。
ジャッジのたびに、カップがずれるのが気になりますが、そのうちもっと気になることが。相手の三塁側ベンチの選手が「高めとるぞ ! 」と何度も叫ぶのです。「この球審は高めのストライクゾーンが広いぞ」の意味で、悪気のない味方打者へのアドバイスなのですが、「ボールでもストライクだから気を付けろ !! 」とも受け取れます。毅然(きぜん)として「審判がストライクと言えば、ストライク」と胸を張れればいいけど、「高いかな?」と気になり始めたら、落ち着かない。そこで、お願いしたい。「判定のことは、球審に聞こえないように打者の耳元でアドバイスしようね」。そう胸の内で叫びながら、ストライクゾーンは高いまま、試合を終えました。
先輩審判からいくつかアドバイスをもらいました。立ち位置が構えた捕手から離れ気味だったので、捕手のかかとのラインまで前に出た方がいいそうで「その方が低めが見えますよ」。そう、高めは見えてたのよ…と、少し安心しました。
緊張の7イニングでしたが、やりがいもありました。何より、最前線で野球を見ることができます。一喜一憂はできませんが、練習でも近づけない場所で、わが子のプレーも見た。ヒットもあったし、二塁ベース寄りの遊ゴロを正面に入ってさばこうとしてトンネルしました。トンネルの向こうにボールが弾んでいく様子が丸見えだった。なので、息子のことは「川端康成」と呼んでいる。「『トンネルの向こうは雪国だった』だからな」。息子は悔しそうに「寒い」と言う。そう、雪国だからね(うまい!)。
そんなことはいいです。経験がないからと尻込みされがちな審判だけど、醍醐味(だいごみ)もいっぱいあります。球審とはいかなくても、少し動き方を教われば、グラウンドに立ってみましょう。先輩審判は「来週もお願いします」って。落ち着かない週末がやってきた。【久我悟】

