動物写真家の小原玲氏（５６）が、写真集「もっとシマエナガちゃん」（講談社）を出版した。昨年出版した「シマエナガちゃん」に次ぐ第２弾。北海道に生息する、日本で一番小さい鳥、シマエナガの愛らしい姿に迫っている。小原氏は元報道カメラマン。写真誌「ＦＲＩＤＡＹ」の創刊期にはエースカメラマンとして活躍した。白くてフワフワ、かわいいシマエナガから、切った張ったの修羅場まで、そのカメラマン人生を聞いてみた。
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ＦＲＩＤＡＹ創刊は８４年１１月。まだ、コンプライアンスと言う言葉も、個人情報保護法もなかった時代。取材合戦は激烈を極めた。
８５年２月、田中角栄元首相が入院、同８月日航機御巣鷹山墜落、同９月ロス疑惑三浦和義氏逮捕。小原氏は、修羅場の最前線にエースとして投入された。
「いまでこそ、芸能スキャンダルのイメージがありますが、当時は事件を追っていたんです」
銀座東急ホテルの駐車場で、マスコミが見守る中、三浦氏が逮捕された時は、小原氏だけが三浦氏の顔の撮影に成功した。「どのカメラも車の正面に回ったんですが、私は車の後ろから三浦氏を狙って成功しました」と振り返る。
玉置浩二と石原真理子の不倫愛、長渕剛と志穂美悦子の熱愛などのスクープも物にした。だが、やがて小原氏はＦＲＩＤＡＹを去る。
「ロス疑惑以降は事件のネタじゃなくて、芸能にシフトしたんです。でも、他人のエッチを撮るためにカメラマンになったんじゃないぞという気持ちが強くなって」
スペイン内戦、日中戦争、第２次世界大戦のヨーロッパ戦線、第１次中東戦争、第１次インドシナ戦争を取材した戦場カメラマンのロバート・キャパ、ベトナム戦争取材中に銃撃されて亡くなった沢田教一。この２人が憧れだった。
「報道カメラマンになったのに、来る日も来る日も芸能人のマンションに張り込みの日々に疑問を感じた。カメラマンなのに、シャッターを押さずに待つだけだった」
だが、人生に無駄はない。芸能取材の張り込みのノウハウが今、シマエナガの撮影で役に立っている。
「芸能の張り込みは交代要員が来るけど、北海道の大地でシマエナガを待っている時は来ませんからね。ＦＲＩＤＡＹ時代にリモートコントロールで撮ったことがあるけど、シマエナガの巣立ちをそのノウハウでで撮りました。まさかＦＲＩＤＡＹ時代の経験が、鳥で生きるとは」。
昭和の時代で、写真誌カメラマンに見切りを付けた小原氏は、被写体にアザラシを選んだ。白い雪原に愛くるしい姿を見せる写真集「アザラシの赤ちゃん」は小原氏の作品だ。
「２８年間もアザラシを捕って来ました。だけど、去年はカナダの流氷の具合でアザラシが撮れなかったんです。そうしたら、友達が『アザラシに似た鳥がいますよ』って。それがアザラシの赤ちゃんにそっくりなシマエナガだったんです」
昨年１月から６月まで、北海道全域でシマエナガを狙った。シマエナガは「エナガ」の亜種で、日本では北海道のみに生息する、顔が白く、体長は１４センチ。その半分は尾だ。名前のエナガは、尾を柄に見立てた「柄長」から来ている。胴体だけなら、日本の鳥で最小だが、尾も入れると体長１２センチのキクイタダキの方が小さい。
「シマエナガは１日中待って、うまくいって撮れる時間は５分くらい。すくないと５秒。全く会えないこともあるので、合計で５分も会えれば鬼の首を取ったようなもんです。５分というのは、結構長いですからね」
被写体であるシマエナガとの距離は、意外に近い。
「５、６メートルのところに来てもらうように、動きを予測して待ちます。近寄っていきながら『あっちの木に行くだろうな』と予測しています。レンズは４００～６００ミリの１・４倍。８００ミリ相当ですね。小さい鳥で動きが速いから、大砲は使えません。そばによるときは１００～４００ミリのズーム１／４倍。できるだけに身軽にしますから寒いんですが」
きれいな霧氷のカットを撮ったときの気温は氷点下２０度という寒さだ。
小原氏がカメラを手にしたのは中学２年の時。父親の形見の一眼レフだった。群馬・前橋高時代に高校生の写真コンテストでグランプリを獲得した。
「同級生にエロ本広げて持たせた写真を応募したんです。審査員は喜ばないだろうなと思ってたんですが、なぜかグランプリになっちゃった。でも、次点の人がむちゃくちゃいい写真を撮っていて『写真とはこういうものなのか』と、すごく悔しかった。上には上がいるんだとプロを目指そうと思った」
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◆小原玲（おはら・れい） １９６１年（昭３６）２月２日、東京生まれ。群馬・前橋高から茨城大人文学部を卒業して、ＦＲＩＤＡＹ専属カメラマンに。その後、米国写真通信社のカメラマンとして、天安門事件、湾岸戦争、ソマリア内戦などを取材。アザラシの赤ちゃんとの出会いをきっかけに動物写真家に転身。アザラシ、シロクマ、マナティ、ホタルなどを撮影。
