昭和を代表する歌手美空ひばりさん(89年死去、享年52)が、18歳だった56年2月10日にレコーディングした未発表曲の音源が見つかった。
所属レコード会社の日本コロムビアが先日、発表した。タイトルは「二人きりで」(作詞・藤浦洸、作曲・原六朗、編曲・松尾健司)。揺れ動く少女の恋心を歌っている。
同社が保管する約11万本のマスターテープを、随時整理する中で見つかった。
今年はひばりさんの芸能生活80周年にあたる。命日である6月24日に、配信シングルとしてリリースされる。また同日発売の記念CD4枚組「うたの宝石箱」に、ボーナス・トラックとして収録される。
同社関係者は「18歳という、少女から大人へと移ろいゆく時期の貴重な録音です」と話している。
作詞家、作曲家が書きためた未発表作品は数多くある。だが、人気歌手がレコーディングしながら未発表(未発売)となるのは、そう多くない。
理由はさまざまだ。
名優高倉健さん(14年死去、享年83)は、歌手としても多くのレコードを発表した。その中で2曲は未発表のままだった。
オリジナル曲「対馬酒唄」(97年録音)と、そのカップリングでフランク永井さんのカバー曲「流れの雲に」(98年録音)。
シングル発売を予定して録音されたが、関係者によると「俺が死んでから発売してくれ」という健さんの意向で、発売が見送られたという。
「対馬酒唄」(作詞・荒木とよひさ、作曲・徳久広司)は、福岡出身の健さんをイメージした作品で、不器用な九州男児の歌。60代後半の健さんの実直な九州弁と、ギターの音色が印象的な作品だ。
歌詞には「俺が死んだら、桜の下に骨を埋めて、花見をしてくれ」という趣旨のフレーズがある。
レコード会社と事務所が協議して、健さんの生誕90年を迎えた21年3月発売のアルバム「風に訊け-映画俳優・高倉健 歌の世界-」に収録された。まさに桜の季節だった。
「蘇州夜曲」で知られる渡辺はま子さん(99年死去、享年89)が、38年(昭13)に録音した「あの日のわたし」は、85年の時を経て23年8月発売のアルバム「渡辺はま子の世界~蘇州夜曲」に収録された。
軍靴が響く世相で、カップリング曲「地震・雷・火事・女房」が内務省から発売禁止の対象となった。そのため「あの日のわたし」も発売されなかった。
音源はレコード会社にも残っておらず、幻の作品と言われていた。ところがアルバムを監修した日大・刑部芳則教授が、関係者の資料の中から見本盤を発見して発売となった。
「誰よりも君を愛す」「再会」で知られる松尾和子さん(92年死去、享年57)の未発表曲「かわいい女」は、松尾さんが作詞した。91年に完成していたが、長男の薬物事件で発売が見送られた。
その後、発売を模索していたが、松尾さんが自宅の階段から転落して急死した。遺作が未発表曲となった。
没後21年となる13年の命日9月25日に、別の歌手でCD発表された。一部、松尾さんの声も収録された。
未発表曲は故人のベストアルバムなどを制作するため、レコード会社が過去の音源を整理している中で、発見されるケースも多い。
テレサ・テンさん(95年死去、享年42)の未発表曲「ラブソングは夜霧がお好き」(作詞・荒木とよひさ、作曲・三木たかし)も、没後30年という節目の中で見つかった。
ファンにとってはうれしいし、レコード会社にとっては記念アルバムなどの目玉作品になる。
デジタル化される前の音源を掘り起こすには相当な労力が必要だが、『新発見』を期待したい。【笹森文彦】



