世界的映画監督の是枝裕和監督(63)がもの申す。近年、外的な要因で難局に立たされる政府が強力に推し進めるのがエンターテインメント・コンテンツ産業の成長だ。政府は33年までに、海外売り上げを自動車産業(24年21兆6000億円)並の20兆円まで成長させると官民目標を掲げたが「国策化する方向に寄りかかり過ぎると失敗する」と警鐘を鳴らすのが是枝監督だ。新作「箱の中の羊」公開の中、日刊スポーツの取材に思いを語った。
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是枝監督は、岸田政権下の24年9月に政府が設置したコンテンツ産業官民協議会と映画戦略企画委員会に民間構成員として参加している。会では労働環境の改善や製作者への収益還元、人材育成支援などの論点が話し合われているが、4月2日に開催された第2回会合で、海外売り上げ20兆円は「目標なのか結果なのか?」と題した書類を提出し、政府の方向性に危惧を訴えた。
政府は、エンタメ政策5原則として
<1>大規模・長期的・戦略的に支援する。
<2>日本で創り、世界に届ける取組を支援する。
<3>作品の中身に口を出さない。
<4>真っ直ぐ届ける。
<5>挑戦者を優先する。
を掲げ、経産省の文化芸術コンテンツ・スポーツ産業の海外展開促進事業費補助金「JLOX+」を設けた。製作費3億~8億円の中規模作品へ2億円を上限に公的支援するものだった。
それが今年3月31日に、JLOX+に代わり公募を開始した経産省の新たな補助金「IP360」では、支援の対象が製作費8億円以上の大型作品となった。是枝氏は「IP(知的財産)で外貨を稼ぎましょうという企画に乗っかりますという話。そうなると、漫画原作の大作が手っ取り早く稼げるから、乗っかりますという提言でしかない」と指摘。エンタメ政策5原則の「作品の中身に口を出さない」を「命綱」と位置付けつつも「(支援対象の)製作の形態に偏りがある。内容に口を出さないと言っておきながら、かなり口を出している」と批判した。
一方で、映画業界にも厳しい目を向けた。是枝氏は、映画製作の環境改善に心血を注ぎ、22年6月に「日本版CNC設立を求める会」を立ち上げた。CNCはフランスの国立映画映像センターのことで、映画、配信サービスの興行収入(興収)鑑賞料金の約11%を税として徴収し、製作者に再分配している。韓国でも韓国映画振興委員会(KOFIC)が劇場から興収の3・4%を徴収し、製作者に再分配しており、同氏は同様の共助システムを日本にも作ろうと会を設立した。
そして、東宝、松竹、東映、KADOKAWAの4社で構成する最大の業界団体・日本映画製作者連盟(映連)と、21年から話し合いを続けてきた。ただ、映連側は仏・韓両国にある法律が日本にはないと指摘。「完全に民間の仕事になり、議論が必要」「財源の問題」などと国に検討課題を投げる形となり、話が進まない。是枝氏は「業界を10~20年後、どう維持していくかを考えるべきポジションの人が多分、自社のことしか考えていないというのが今の状況」と映画業界も厳しく批判した。
一方で、映画製作における適正な就業環境や取引環境を実現するために、23年4月に映画界が自主的に設立した第三者機関、日本映画制作適正化機構(映適)が、4月から取引ガイドラインを改訂したことに期待する。製作費1億円以下の作品は任意だった申請の対象を全作品に広げ、クランクインを起点とする1週間ごとの撮影時間は「11時間×撮影日数を超えてはならない」とする「週単位ルール」の導入などに踏み切った。是枝氏は「(製作の)基準が上がれば、製作費も上がる。現場が改善されて、働きやすい環境ができ、そこから新しい才能が出てきて、面白いものが作られて、海外への展開が広がって結果的に外貨が獲得できるのが理想」と口にした。
一方で「でも、それは10~15年のスパンで考えていかないと、生まれてこないじゃないですか? 大谷翔平投手のような選手が出てくるには、少年野球チームの監督を作っていかないといけない」とも指摘。「それをやらないでおいて、海外で活躍できそうな選手に、乗っかろうみたいに感じられる。そこに引っ張られちゃっているから、おかしいなと思って」と、改めて政府の現状の方向性も交え、疑問を呈した。
その上で「(映適の取引ガイドラインの)基準だけ上げ、放置していると、チャレンジングな企画だけが作られなくなって終わり。そこの手当を、誰が考えるか? ということ」と指摘。「だから、業界の共助の仕組みを先に作った上で、公的な支援を…という順番だと思っていたんだけども、ルール作りができた後の手当を業界はせず、公的な支援で潤わせようという、あまり健全ではない話になっている」と疑問を呈した。【村上幸将】



