世界的映画監督の是枝裕和監督(63)がもの申す。近年、外的な要因で難局に立たされる政府が強力に推し進めるのがエンターテインメント・コンテンツ産業の成長だ。政府は33年までに、海外売り上げを自動車産業(24年21兆6000億円)並の20兆円まで成長させると官民目標を掲げたが「国策化する方向に寄りかかり過ぎると失敗する」と警鐘を鳴らすのが是枝監督だ。新作「箱の中の羊」公開の中、日刊スポーツの取材に思いを語った。
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公開中の「箱の中の羊」は、世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭(フランス)でコンペティション部門に出品された。24年春に中国で死者のよみがえりビジネスが人気という記事を読んだ際に湧いた「最新のテクノロジーで死者をよみがえらせる」という発想が出発点となり、同秋に実際にビジネスをしている人に会いに行って取材し原案・脚本から手がけた。
製作を振り返り「今回、自分の中で1番、言語化できなかった」と明かしつつ「こういう時は作っていて面白いですよ」と笑みを浮かべた。「僕には見えているんだけど、プロセスで結構…(言語化が難しかった)。考えながら作ったと言うよりは、作りながら後から思考が追いついていくみたいな形だったので。僕は好きです、この作品」と続けた。
舞台は、そう遠くない未来で、綾瀬はるか(41)が演じた息子を亡くして2年がたつ建築家・音々と、千鳥の大悟(46)が演じた工務店の2代目社長を務める健介の甲本夫婦が、桒木里夢(くわき・りむ=10)が演じた息子・翔の姿をしたヒューマノイドを迎え入れる。ヒューマノイドに前向きだった音々が「おかえり」と駆け寄って喜ぶ一方、健介は戸惑いを隠せず、ヒューマノイドから「パパだよね」と問いかけられても「おじさんで、ええよ」と答えるなど、夫婦の間には温度差が生じる。生前の翔のデータを元に作り上げ、翔本人のようにしゃべり、振る舞うも人間ではないヒューマノイドを迎え入れた2人の姿から、人とは何か? という人間性を問う物語となっている。
今回、話題を呼んだのは、映画初主演で世界最高峰の舞台・カンヌ映画祭まで到達した、大悟の演技だ。是枝監督は「相手の芝居を、ちゃんと受けられて、変わっていけるから。なかなか、素材だけではない、という感じ。綾瀬さんとの掛け合いの中でも、やっぱり、ちゃんとはね返すので」と評した。その上で、具体的なシーンをピックアップした。
「踏切で『ごめんね』って謝るシーンは、テイク1では、里夢はただ聞いているだけなんだけど、テイク2で(大悟の)肩に手を置いてもらったよね。触られてからの(大悟の)芝居が、確実に変わるので。ちゃんと感じた上で、芝居に反映させるというのが、とてもできる人だなとは思いましたから」
綾瀬が5月11日に都内で行われた完成披露試写会で「大悟さんだけは方言が自由だった」と明かしたように、大悟は今作でも「ワシ」などと、いつも通りの語り口を崩していない。今回の演技が話題を呼び今後、俳優としての活動の幅が広がった場合、標準語のセリフへの対応に壁はないか? と尋ねると、是枝監督は「できるでしょう」と即答した。【村上幸将】



