記事を読んで、ある人の顔とエピソードが浮かんだ。 

昨年、浜岡原発再稼働をめぐって偽装した地震動データを原子力規制委に提出したことが発覚した中部電力が、規制委の調査中、またも不正がなかったかのようにデータを改ざんしていたことが明らかになった。

度し難い企業体質。だが中部電力は、今回も原子力土建部などの社員がやったことだとして会社ぐるみを否定している。しかし地震動偽装の震源地とされた社員が同じことをまたやるだろうか。

そんな折、澤井余志郎さんの顔が浮かんできた。澤井さんは1970年代、高度経済成長の真っただ中に起きた水俣病など日本の4大公害の1つ、四日市公害の語り部。当時、化学工場や、いままた問題となっている中部電力などがコンビナートにひしめいていた四日市の空は、排ガスに覆われて人々は喘息(ぜんそく)に苦しみ、伊勢湾の高級魚は「油臭い」と市場から突き返された。

何度話し合いの場をもっても頑として因果関係を認めない企業や県、国。ある日の交渉の場で業を煮やした住民や漁師たちは企業の社長や国や県の幹部、それに大勢のお付きの人たちの昼食に、あの伊勢湾の魚の刺し身や煮つけを並べた。

すると、国など役所の幹部は一口つけてペッと吐き出し、企業の社長は2、3口で気まずそうに箸を置いた。ところがお付きの社員を見ると、みんな必死に刺し身や煮つけを口に押し込んでいるではないか。中にはゲボゲボと涙目の人もいたが、皿は見事空になっていた-。

2015年、87歳で亡くなった澤井さんは、その少し前、「私も長い間、勤め人、宮仕えをしていましたが、私たちの社会は、あんなことをしていてはいけません」と静かに話していた。

四日市公害は、この国が上り坂の真ん中。そしていまは転がり落ちる下り坂の途中。だが、どんな時も為政者が発する言葉は「経済最優先」。しかし私には決して易々と口にしてはいけない言葉に思えてならない。

◆大谷昭宏(おおたに・あきひろ)ジャーナリスト。東海テレビ「ニュースONE」静岡朝日テレビ「とびっきり!しずおか」など出演中。