「ひふみん」こと、将棋棋士の加藤一二三(ひふみ)九段(77)が、あなたのお悩み相談に答えます。14歳でプロになり、今年6月に引退するまで63年間、勝負の世界に身を置いてきました。敬虔(けいけん)なキリスト教徒として30歳で、洗礼も受けています。生きる厳しさと、聖書の教えをベースに、指導対局ならぬ、人生指南をしてくれます。毎週水曜日に掲載します。

 

<質問>

 都心の一戸建てに暮らしています。最近、わが家で犬を飼い始めたのですが、以前からあいさつ程度しか交わしていなかった隣の奥様(推定60代)に「うるさいので何とかして」とぴしゃりと言われてしまいました。犬を手放す考えはありませんし、割と温厚に見えた奥様から厳しめに言われたことにショックを受けています。これからどうお付き合いしていくべきでしょうか。(54歳主婦・東京都)

 

<解答>

 これは意外と難問ですね。私は猫を飼ったことはありますが、犬を飼ったことがないものですから。でも、公園で遊ばせていただけで、犬の鳴き声がうるさいと訴えられ、敗訴したという判例は覚えています。

 通常、自治体の公式見解として、飼い主は「近隣の理解を得てから飼いなさい」と言われます。将棋なら「定跡」でしょう。でも、近隣住民の中には、「理解できません。一切しません」などという人もいます。反対者が1人でもいると大変です。話し合いはいつまでたっても平行線のままです。将棋で言うなら、いつまでも同一手順が続いて局面が打開できない「千日手」のようなものです。

 知り合いの判事によりますと、理解を得ようと行動するなかで、やってはいけないことがあります。苦情を言い始めた隣人に、お菓子やお酒などの贈り物を持ってあいさつに行くことです。

 お願いする側にしてみたら「良かれ」と思っての行動でしょうが、相手の考えは実際に聞いてみないと分からないですし、理解を求めるのは無理です。「動物愛護法」についても私は勉強しましたが、(動物が)嫌いな人がいるのを前提に対処すべきだと分かりました。

 犬が鳴くのは当然として、手放す考えがないというのは、生きとし生けるものを大事にしている証拠。飼う側として、近所に迷惑がかからないように努力をしているのを知ってもらうことも大切です。

 たとえば、犬をなだめるためにしつけるスクールに通うとか、防音性の高い小屋に入れて鳴き声があまりもれないようにするとか、可能な範囲でのできることを実行してみてください。そして、最後は犬の知能を信じてあげてください。