映画「翔んで埼玉」の興行収入が20億円を突破し、住みたい街ランキング4位に大宮がランクイン。保釈されたカルロス・ゴーン被告が変装して乗り込んだ軽ワゴンが春日部ナンバーなど、なぜか埼玉県が激アツだ。「ダサイタマ」と言われ続けた同県に何が起きているのか。映画で話題の「埼玉ポーズ」仕掛け人でもある、クリエイティブ・ディレクター鷺谷政明さん(39=上尾市出身)に話を聞いた。【梅田恵子=埼玉県在住】
埼玉が元気なポイントとして鷺谷さんが挙げているのが、バブル世代の一回り下、「ダサイタマ・ネイティブ」時代の到来だ。「ダサイタマという言葉に過敏に反応するのは主にバブル世代。異性を意識する多感な10代で故郷がダサいと言われ、心のどこかにトラウマがある。あの時代の若者には『翔んで埼玉』はきっとウケなかったと思います」。
一方のダサイタマ・ネイティブは、生まれた時から「ダサイタマ」がデフォルトとしてある。39歳の鷺谷さんもその1人。「ダサイタマをはねつけるのではなく、共存の道を選ぶようにアップデートされたネイティブ埼玉県民」という。「ブランドよりコスパ重視の世代なので、『埼玉の方が安く都心に通える』と合理的に埼玉を評価していて、ダサイタマはむしろディスられ芸のパワーワードになっている。『翔んで埼玉』の大ヒットは、ダサイタマという言葉とともに40年歩み、柔軟性を身につけた埼玉の集大成です」と話す。
実際、人口が増え続けているのは住みやすさの証しであり、「住みたい街ランキング2019」(スーモ)では大宮が新宿、品川、目黒などを抑えて4位、浦和も8位にランクインして話題になっている。にもかかわらず、県民の郷土愛がいまひとつであるのも埼玉県の特徴。「都道府県出身者による郷土愛ランキング」(ブランド総合研究所)では、15年から3年連続最下位、18年はワースト2位の46位だった。
鷺谷さんは「埼玉県のランキングが低いのは、埼玉県民が『埼玉が好きです』と言わないから」と笑う。「聞かれれば『嫌いではない』というのが埼玉県民の郷土愛の形。『嫌いではない』はアンケートに反映されないから、順位は低くなる」。好きと言わないのは「いいところだよ、楽しいよ、と言っても多分分かってもらえない。だったら『好き』と言わずに『嫌いではない』と言う方が収まりがいい」。
好きと言わない郷土愛の背景には「決定力不足で周りに合わせる」県民性があるという。「歴史的に見ても、江戸と日光をつなぐ街道とか、縦の道路しかない“通り道”の役割。通り道を作るなら宿場町を置いてビジネスしていいですか、みたいな、自分発想じゃなく、乗っかってばっかりなところがあります」。
埼玉ブームに喜ぶ一方、警戒もしている。「ほめられすぎちゃうと、ここからどうしようと。これからは受け身一方ではなく、独自のコンテンツを発信していかないと、ディスられ芸だけでは飽きられてしまう」。しかし、動じてはいない。「730万人以上の埼玉県民がいるということは、16~17人に1人は埼玉県民ということ。埼玉にゆかりのある埼玉分子は全国に大勢います。『翔んで埼玉』を関西で見て面白かったと言っている人も、実は埼玉の可能性がある。数を力に仕掛けていくべき」としている。
◆埼玉ポーズ 手をオッケーサインの形にし、胸の前でクロスさせ、左足を少し前に出すポーズ。埼玉県鳥のシラコバトの羽と、埼玉の“玉”をイメージ。これまで安室奈美恵さんら多くの有名人がポーズ姿を披露。
◆鷺谷政明(さぎたに・まさあき)1979年(昭54)、埼玉県上尾市出身。埼玉県を中心に企業や自治体の広告制作、プロモーション事業を請け負う「天下茶夜」代表。14年、県内の企業、観光地、自治体の協力のもと、埼玉ポーズが生まれた動画「そうだ埼玉」を制作。著書「なぜ埼玉県民だけがディスられても平気なのか?」(徳間書店)発売中。
<主な埼玉現象メモ>
◆映画「翔んで埼玉」(2月22日公開) 3月17日までの24日間累計で興収20億円を突破、観客動員156万人以上を記録。今後春休みシーズンでさらに伸びるとされ、30億円を目指せる成績で推移中。
◆カルロス・ゴーン被告 保釈され、東京拘置所から出る際に乗り込んだのが春日部ナンバーのスズキ軽ワゴンだったことが話題に。
◆羽生結弦も埼玉ポーズ フィギュアスケート世界選手権大会で、羽生や宇野昌磨、紀平梨花、坂本花織ら注目選手がフジの公式ツイッターで埼玉ポーズを披露。
◆センバツ 1回戦で高松商(香川)と戦った春日部共栄のアルプス応援に、はなわが歌う「翔んで埼玉」の主題歌「埼玉県のうた」。6回表の攻撃に演奏され、歌詞の「だんだ、だ埼玉!」の部分を全体で。