映画「宮本から君へ」(真利子哲也監督)の製作会社スターサンズが、助成金交付内定後に下された不交付決定の行政処分の取り消しを求めて、文化庁所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会」(芸文振)を訴えた裁判の第1回口頭弁論が25日、東京地裁で開かれた。

第1回口頭弁論には、18年にテレビ東京系で放送された連続ドラマから文具メーカー「マルキタ」営業部長・岡崎正蔵役を演じる、俳優の古舘寛治(51)が足を運び、傍聴した。古舘は演技派俳優としてNHK大河ドラマ「いだてん」など多数の映画、ドラマに出演する一方で、近年はツイッターで政治や憲法、人権問題に関して持論を発信する“もの申す俳優”としても知られる。

古舘はこの日午前、法廷に姿を見せ「出演者として当然、という思いで足を運びました」と笑みを浮かべた。原告側の会見も参加後、取材に応じ「戦後教育が失敗し、僕たちは政治や社会問題に対し、無関心であることを教育されて生きてきた。人間は習慣で生きるもので、普段やったことがないことはよほど利益がないとしない。だから、みんな無関心」と日本の現状を憂えた。

その上で「だから今、これだけ政治がボロボロになっているのに、みんな傍観している。行動した経験がない、習慣がない、利益にもならないから。だから、今、社会はこうなっていて、こういうところ(傍聴)に参加する人間が誰もいない」と力説した。

会見の中で、スターサンズの河村光庸エグゼクティブプロデューサーは、映画に出演する俳優や製作者の間にも、今回の裁判に関心を持つ人は多いとした。一方で「この裁判を武器にして、皆さんで一緒にやろうというと、ちゅうちょする。それがものすごく大きな問題。俳優、監督、文化庁助成、いろいろなものに関わる中、ちゅうちょする」と映画業界でも模様眺めの状態だと説明。「1強体制を打破しようとしても、それが守られない野党の雰囲気と、同じようなもの(印象)を受けざるを得ない。様子見、どこかに忖度(そんたく)するのは大きな問題。この問題、このまま行くと孤立する。そのところにいる」と危機感を口にした。

古舘も現在、テレビ東京系で放送中の連続ドラマ「コタキ兄弟と四苦八苦」で主演しており、そういう中で政治的発言を行うなどすることにはリスクが伴う。ただ「CMは来なくなりますけど、仕事は来ていますからね」と苦笑した上で「でも、結局、みんなが黙ってどうするんですか、ということ」と力を込めた。

今後も、スケジュールが合えば、口頭弁論には足を運ぶつもりだ。古舘は「僕みたいな変人じゃないと、こういう場所に来ない。でも欧州では、政治が自分たちの生活を変える力があるものかを教育している。今の世の中は、おかしいと思っていますよ」と語り、東京地裁を後にした。【村上幸将】