東日本大震災の津波で流された宮城県気仙沼市の「えびす像」が、1月14日に海底から引き上げられてから約2カ月。所有者である五十鈴神社を訪れると、後継の「えびす像」が、青いシートに包まれた姿で5月末のお披露目を待っていた。ところが、新しい像が手に持つのは、「えびすさま」に定番のタイでなく、気仙沼の“市の魚”にも指定されているカツオだった。その理由は…。

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「新しい像は実は3代目なんです。これまではタイを手にしていましたが、生鮮カツオの水揚げが23年連続日本一の気仙沼としては今回、何としてもカツオを外せませんでした」。こう力説するのは地元の商工・漁業関係者らで設立した「三代目恵比寿像建立委員会」の臼井賢志委員長(77)だ。

大漁と航海安全の神さま「おえびすさん」は1932年(昭7)に初代の像が設置された。だが、第2次世界大戦の金属回収令で政府に供出。復活を望む声を受け、2代目が復元されたのが88年だった。それからは、出港の際に船上から両手を合わせて熱心に詣でる漁師の姿がすっかり定着していた。長年にわたり、「おえびすさん」は漁師の心の支えであり、気仙沼市民のシンボルでもあった。

そのため、津波で流失した後に、潜水士が何度も海に潜って捜索を継続。だが結局見つからず、17年に臼井さんらを中心に3代目の製作を決定した経緯がある。臼井さんは「海底では粘度の濃いヘドロに覆われていたので見つからなかった。でも、時間の経過とともにヘドロが流されて姿を見せるようになったのでしょう」と安堵(あんど)の表情を見せた。五十鈴神社の神山正志宮司(70)も「さおは折れていたけれど、それ例外は、どこも傷んでいなくてすごくきれいでした」と8年10カ月ぶりの再会を喜んだ。そして「2代目も神社の敷地内に設置したいと思っている」と明かした。初代と2代目の身長は約150センチだったが、“令和バージョン”の3代目は約170センチと20センチも大きくなる。

カツオ漁日本一を誇る気仙沼市だが、19年の水揚げは前年比で2割以上も大幅に減少。かつてないほどの不漁だった。“漁の神さま”が不在だったことが理由というわけではないが「3代目の御利益への期待はすごく大きい」と臼井さん。神山宮司も「これからは2代目と3代目が一緒に海を見守っていきますからね」と続いた。“カツオの町・気仙沼”の完全復活へ、大漁と航海安全のダブルの効果に大きな期待を寄せている。【松本久】

◆五十鈴神社 宮城県気仙沼市魚町に鎮座し、天照皇大神が主祭神。社伝によると、約600年前に別の場所で創祀され、後に現在の場所に遷座。境内社として猪狩神社や産霊神社がある。