23日に死去した女子プロレス選手、木村花さん(享年22)は人気恋愛リアリティー番組「テラスハウス」に出演し、人気を博した。一方、SNSを通じて毎日約100件の率直な意見が寄せられ「傷ついたのは否定できなかった」とし、誹謗(ひぼう)中傷を受けていたと自身のツイッターで明かしていた。SNS上のコミュニケーションについて、碓井真史新潟青陵大教授(社会心理学)に聞いた。(聞き手・近藤由美子)

 

悪気やポリシーがあるわけでもなく、ネット上で悪口を楽しんでいる人たちが結構います。訴えられるリスクとも向き合いながら記事を書く記者と違って覚悟もない。当事者に面と向かったら多分言わないのに、ネットではいいと思っている。

ネットは公の場で世界に開かれた場所。お茶の間や居酒屋トークで有名人の悪口を言うのは自由ですが、書き込む側に当事者が見るかもしれないという想像力がない人が多い。積極的に悪口を書き込む人もいますが、「自粛警察」と同じ。正義の味方気分を味わえるだけで、大きな影響をもたらすことがあるという想像力もないし、覚悟もない。

強く元気そうな人や傷ついていてもそれが表に出ない人には、いろいろやっても大丈夫、と感じてしまう人もいます。生身の人間であることを考えていない。一方、有名人は本業で文句を言われるのは仕方ないと思っても、表に出さないプライベートを突かれることに慣れていない人もいる。有名人だからこそ言い返せず、打たれっぱなしになりがちです。

かつて映画で活躍する俳優は「銀幕スター」と呼ばれ、雲の上の存在でしたが、「会いに行けるアイドル」が人気になり、政治家も芸能人も庶民派がスタンダードの近年、テレビで見る人を身近に感じ、言いたいことを言える対象になりました。そして、有名人でも、テレビなどで表に出ている姿とは違う素の姿があるのだと忘れられています。有名人はキャラを演じていることもある。このタレントが厳しいことを言うのはお約束だよね、などといったキャラクター上の「約束ごと」として理解する。それが、今はどこかにいってしまったところがあります。

ネットはテレビや電話より、ものすごいスピードで広がりました。規制は難しく、今後はSNSの正しい使い方を教えていくことが必要だと考えます。傷つけないようにすること、傷つかないようにすること。それを教える「安全教育」が大切だと思います。