東京・池袋の都道で19年4月19日に乗用車が暴走し、松永真菜さん(当時31)と長女莉子ちゃん(同3)が死亡した事故で、今年2月に自動車運転処罰法違反(過失致死傷)罪で東京地検に在宅起訴された、旧通産省工業技術院元院長・飯塚幸三被告(89)の初公判(下津健司裁判長)が8日、東京地裁で開かれた。

真菜さんの夫の松永拓也さん(34)の弁護人を務める高橋正人弁護士は、公判後の会見で、東京地裁から「被害者参加制度を使うのと遺影を持つのとの、二者択一を迫られた」と明らかにした。被害者参加制度を使って裁判に参加する被害者は、法廷と傍聴席を分けるバーの内側に入ることができ、必要と認められる場合には被告人に質問すること、証拠調べが終わった後、事実または法律の適用について、法廷で意見を述べることができる。

今回は参加者が多かったためバーの外の、傍聴席の一部を法廷内の扱いにした。同弁護士によると、バーの内側には松永さんと真菜さんの父上原義教さん(63)と弁護人2人、傍聴席に設けられた被害者参加制度扱いの席には、松永さんの両親はじめ多くが座る予定だった。

ところが、東京地裁から、傍聴席に設けられた被害者参加制度扱いの席に座る人が、真菜さんと莉子ちゃんの遺影を持つことは認めないと連絡が来たという。高橋弁護士は「(裁判所は)内廷だから遺影を持ち込めない。遺影を持ち込みたければ、被害者参加をしないで、一般人として傍聴席に座れ、被害者参加制度を使うなら遺影を持つな、ということ。上申書で抗議した」と説明した。ただ、上申書は却下され、その説明もなかったという。

高橋弁護士は「本来、確かに遺影をバーの中に持ち込めば、被告人の目の前に遺影があるわけですから、悪影響を与えるというのが今までの裁判。家族としてバーの中に入っていれば、被告人の目の前にいるから、ある程度は影響を与える、傍聴席ならいいという理由」と一般論を説明した。その上で「今回、被害者参加だが(被害者参加制度扱いされた一部の傍聴)席はバーの中ではない。全然、被告人から遺影が見えるシチュエーションではない。私は悪影響は与えること自体は反対だが、今回は悪影響なんか与えるわけがないにも関わらず、形式的な理由で否定した。非常に不満を持っています」と憤りをにじませた。

松永さんは「私は法的な知識は何もないですから、こういうものなんだと受け入れるしかなかったんですけど、親族と話し合っている時に、よくよく考えたら何でだろう、おかしいよね? という話になった。もし、ここで自分たちが声を上げたら、もしかしたら裁判が不利になったりするんじゃないか? という思いもあって悩みました」と疑問を口にした。その上で「自分が声を上げないと、今後も不必要に、こういった思いをして苦しむ方が出てしまうのではないかと思い、弁護人の先生方と話して上申書を提出しましたが、残念ながら認められなかった」と失望した。

そして「遺族としては、被害者参加制度を使って裁判に参加するのも大事なこと。もう一方で、一緒に遺影を持って、亡くなった2人とともに裁判に参加したいんだという思いも、比べることが出来ないくらい、同じくらい大事。どちらかを選択しなければならないのは大変、難しいものでした」と遺族のいたたまれない感情を吐露。「今後も傍聴席で遺影を持てるように裁判所側に言い続けていきたい」と語った。

高橋弁護士は「松永さんのお母さんだけ、被害者参加をしないことにして、傍聴席に座ってもらって、遺影を持ってもらうことにした」と説明した。【村上幸将】