森友学園問題の一連の取材で知られる、大阪日日新聞編集局長・記者の相澤冬樹氏が10日、自身の取材手法を明かした新著「真実をつかむ 調べて聞いて書く技術」(角川新書)を出版する。出版にあたり、NHK時代の先輩でコメンテーターとして活躍する、鎌田靖氏との対談が実現した。同氏も1月18日に、取材時に相手から話を聞き出す技術をつづった著書「最高の質問力」(PHP新書)を出版したばかり。近いテーマの著書を相次いで出版した両氏が、日刊スポーツの取材に応じた。

第1回は、コロナ禍で緊急事態宣言下にあった20年4月に、知人の記者と賭けマージャンをしたことが発覚して辞職後、賭博などの容疑で告発された黒川弘務・元東京高検検事長の問題を例に、権力を取材するメディアのあり方について語った。

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2人は、相澤氏が1993年(平5)にNHK神戸放送局の兵庫県警キャップになった際、社会部で東京地検特捜部など検察の取材を続けてきた鎌田氏がデスクとして赴任して出会った。2人は、ともに95年1月17日に発生した、阪神淡路大震災などの取材に携わった。

その後、鎌田氏は解説委員となり、05年に「週刊こどもニュース」のお父さん役、「NHKスペシャル」のキャスターを務めた後、17年にNHKを退局。現在はTBS「ひるおび」などで、コメンテーターを務めている。相澤氏は、大坂放送局で「森友学園」問題で相次ぐスクープを報じた後、異動を命じられたとして18年8月に31年勤めたNHKを退局した。

相澤氏と鎌田氏は、それぞれの著書で自身の取材歴を振り返り、取材や質問の手法を明かす中で、権力者に対して、どう向き合い、信頼を得て情報を入手するかについても触れている。対談の中で、権力者とメディアが癒着しているのではないか? との批判も多数出た、黒川氏の件について触れた。

両氏は賭博行為は論外とした上で、権力者とマージャンや飲食をともにすることは、信頼関係を得ることで秘匿している重要な情報を引き出すための、取材手法の1つだと説明。その上で、インターネットメディアなど新しいメディアが生まれ、情報の受け手である一般の目線が取材結果だけではなく、取材のプロセスにまで及ぶ時代となっており、報道機関はそうしたプロセスも、きちんと説明する必要性があると語った。

鎌田氏 記者が黒川氏とマージャンをしたのは、信頼関係を得るため。(情報を)隠したがっている人のところに行って、なんとか取らなきゃいけないからで、マージャンが楽しかったり、仲良くなるためではない。僕は検察取材が長かったんだけど、検事総長になる流れだった人物と、マージャンが出来る関係なんて、なかなかなれないもの。批判されることを分かった上で取材したのでしょう。

インプットした取材をアウトプットしないで、ただ単に仲良くなるためだったら、何の意味もない。記者側は、より難しい調査報道に役立つためには、しんどい当局取材はやるべきだという議論は、何十年前からある。それが今は、もう少し進んでいて、取材結果だけじゃなくプロセス、取材手法が問われている。プロセスが見えないところにあると、記者と権力が癒着しているんだろうと見られる。だから、マージャンをやることがおかしいとなっていて、権力取材をしている報道に対する不信感が非常に今、強い。

相澤氏 (マージャンをしていたことが)バレてしまったら、それは取材のプロセスなんだから、思い切って「黒川マージャン放浪記」みたいなのを書いちゃえば良かった。レートがいくらで、誰がどう勝って…すぐには書けないんだけど、どこかで書けば(苦笑い)

鎌田氏 多くの国民が、取材のプロセスもきちんとしなければいけないと思うんだったら、そこで説明をしていかなければいけない。いちいち説明しろと言っているんじゃなく、1、2年後に形として読者に提示づけていかないと…そこまで、一般の人のメディアへの目線は厳しい。最大の要因は、新しいメディアが出来ているからでしょう。だから、そういうところまで問われている。

 

次回は、黒川氏問題などが噴出した安倍晋三前首相の後を継いだものの、新型コロナウイルス対策などで後手に回っているなどと批判され、支持率の低下が止まらない、菅義偉首相の問題点について語る。【村上幸将】