藤井聡太棋聖(王位=18)が初防衛に向けて好スタートを切った。6日、千葉県木更津市「竜宮城スパホテル三日月」で行われた第92期ヒューリック杯棋聖戦5番勝負第1局で、挑戦者の渡辺明名人(棋王・王将=37)を下した。午前9時から始まった対局は、いきなり激しく駒がぶつかり合った。攻めをつないだ後手の藤井が午後6時24分、90手で快勝した。第2局は18日、兵庫県洲本市「ホテルニューアワジ」で行われる。

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昨年とは立場を入れ替えての開幕戦。先手渡辺が誘導した相掛かりに乗った。応じる形で序盤から激しく駒がぶつかり、取っては打ちつける。相撲で言えば「突っ張り合い」、陸上なら100メートル走の選手同士が全力疾走で42・195キロのマラソンを走るような展開だ。午後4時すぎ、優位を築くと一気に押し切った。「難しい展開でした」と、ホッとした表情を見せた。

対局前日、直近の将棋について問われた。3日の順位戦B級1組では稲葉陽八段(32)に敗れ、順位戦の連勝を「22」で止められた。ほかにも苦戦を強いられる対局が目立つからだ。「結果的に状態がいい訳ではないが、棋聖戦に向けて自分なりにしっかり準備してきた」と、会見で話した。

盤に向かえばしっかり局面を読み、最後は3枚の桂を4五、6五、6四の地点に打ち据えて渡辺玉を攻略した。

昨年はコロナ禍による強行日程で、挑戦者決定から中3日で5番勝負に臨んだ。バタバタと始まった開幕戦は和装を諦め、スーツで盤に向かっている。特にタイトル戦という意識はなかった。今年は違う。

3カ月前、竜王戦2組準決勝で松尾歩八段(41)を下し、5年連続昇級を決めた時のこと。「先を見越して戦っていきたい」と、コメントしている。ちょうど順位戦B1昇級を決めた直後で、明らかにその先のタイトル争いや防衛戦を意識していた。

盤外では新たな選択をした。2月、高校(愛知・名古屋大教育学部付属)を1月末に自主退学していたことも明らかにした。3月には不二家、サントリー食品インターナショナルと広告契約も交わした。将棋に専念し、生活できる環境は整った。「次局もしっかり準備して戦いたいです」と、気を引き締めていた。【赤塚辰浩】

 

◆棋聖戦 将棋の8大タイトル戦の1つ。1962年(昭37)創設。初代棋聖は、故大山康晴十五世名人。94年度までは半年に1回開催されていた。95年度から年1回に。96年度は当時7冠すべてを保持していた羽生善治現九段が三浦弘行現九段に敗れ、6冠に後退した。「棋聖」は将棋、囲碁で抜群の才能を示す者への敬称。将棋では江戸時代末期の不世出の天才棋士、天野宗歩(あまの・そうふ)がこう呼ばれた。

【第92期ヒューリック杯棋聖戦5番勝負日程】

◇第2局 6月18日、兵庫県洲本市「ホテルニューアワジ」

◇第3局 7月3日、静岡県沼津市「沼津御用邸東附属邸第1学問所」

◇第4局 7月18日、名古屋市「亀岳林 万松寺」

◇第5局 7月29日、新潟市「高志の宿 高島屋」