将棋の藤井聡太3冠(王位・叡王・棋聖=19)が豊島将之竜王(31)に挑戦する、第34期竜王戦7番勝負第4局が12、13の両日、山口県宇部市内で行われ、後手の藤井が大逆転勝利を収め、開幕から4連勝で竜王を奪取した。羽生善治九段の22歳9カ月の最年少4冠の記録を28年ぶりに更新し、史上初の「10代4冠」が誕生した。

将棋界にある8つのタイトルのうち、半分の4冠を同時に保持し、全棋士の序列トップに立った。優勝賞金4400万円を獲得し、10代で実質1億円プレーヤーとなり、「藤井1強時代」の幕が開いた。

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再び将棋史を塗り替えた。かつての「天敵」にストレートの4連勝。圧倒的な強さで新記録を樹立し、将棋界の頂点に立っても、藤井は顔色ひとつ変えなかった。終局後、「まだ実感はありませんが、最高峰タイトルなので光栄に思います。それに見合う実力をつけていければと思います」と謙虚に話した。

大記録のかかった第4局の戦型は角換わり。豊島が練りに練った作戦をぶつけてきた。2日目は豊島が積極的に仕掛け、藤井が受ける展開に。終盤、豊島の読みを外した一手一手に刻々と、時間が削られていく。それでも時間を惜しみなく使い、極限まで読もうとした。一時、持ち時間8時間のうち、藤井の残りは10分。豊島は2時間29分。緊迫の秒読みの中でもミスを見逃さなかった。豊島の109手目「先手3五桂」。ここから厳しい攻めを連発し、大逆転で竜王を奪い取った。

19歳3カ月の4タイトル同時保持は史上最年少。全8冠のうち4冠は渡辺明3冠(名人・棋王・王将)を抜き、最多となった。藤井、渡辺、豊島、永瀬拓矢王座の4強といわれていたが、藤井が1つ抜け出した。将棋界は本格的な「藤井1強時代」に入った。

これまで6度、タイトル戦に出場し、全て制してきた。「圧倒的な終盤力が特徴ですが、序盤、中盤も付け入るすきを与えていない。すべてにおいて高水準になり、(戦型の)レパートリーが増えている」。驚異の成長曲線に師匠の杉本昌隆八段も脱帽する。

この日の将棋のように劣勢に立たされても、決してあきらめない。5歳の冬から通った「ふみもと子供将棋教室」の教えがある。

弱い者をなめるな 強い者にひるむな 自分にきびしくしよう

感想戦後、宇部市内のホテルでの会見。「藤井1強時代」という声もあるという質問に「常に危機感を持ちたい」。自分に厳しい姿勢は変わらない。19歳で最多タイトルホルダーになっても、おごらず「まだ課題が多い。今後、改善していきたい」。王将戦挑決リーグでも無傷の4連勝で、あと2勝で挑戦権を獲得する。来年1~3月の王将戦7番勝負で4勝すれば、年度内の5冠が決まる。もっと強くなりたい-。そう強く思う。成長は無限大だ。【松浦隆司】

◆藤井聡太(ふじい・そうた)2002年(平14)7月19日、愛知県瀬戸市生まれ。九段。5歳で祖母から将棋を教わり、地元の教室に通う。杉本昌隆八段門下。16年10月、14歳2カ月の史上最年少でプロ(四段)に。史上5人目の中学生棋士。17年6月、デビューから負けなしの29連勝で、将棋界の連勝新記録を達成。18年2月、朝日杯で史上最年少の公式戦初制覇。19年2月、朝日杯連覇。20年7月、17歳11カ月の史上最年少で初タイトルとなる棋聖を獲得。翌月王位も奪取。今年7月棋聖、8月王位と連続初防衛。9月に叡王を奪取して、史上最年少3冠。11月に竜王も奪取して同4冠。本年度成績は40勝7敗(勝率8割5分1厘)、通算253勝47敗(同8割4分3厘)。

○…最強の挑戦者に豊島が4連敗して無冠となった。優勢の場面もあったが、「よくなってたんですか?」と聞き返したほど。「自信がある手順が見つからなかった」と話した。2カ月足らずで叡王、竜王と立て続けに失った。竜王戦まで16回タイトル戦に登場し、挑戦者として5回敗退、5回はタイトル奪取(18年棋聖・王位、19年名人・竜王、20年叡王)。防衛戦での勝利は、昨年羽生善治九段を下して守った竜王の1回だけ。頂上対決の厳しさを思い知らされた。「実力不足を痛感しました」と淡々と語っていた。

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