将棋の藤井聡太竜王(王位・叡王・棋聖=19)が渡辺明王将(名人・棋王=37)に挑戦する、第71期ALSOK杯王将戦7番勝負第4局(主催 毎日新聞社・スポーツニッポン新聞社・日本将棋連盟)は11、12日、東京都立川市で行われ、114手で後手の藤井が勝って開幕4連勝で王将を初奪取した。

19歳6カ月での5タイトル同時保持は史上最年少。5冠を達成したのは史上4人目で、羽生善治九段(51)の22歳10月の最年少5冠の記録を28年ぶりに更新し、史上初の「10代5冠」が誕生した。渡辺は2冠に後退した。

全8冠のうち5冠は現在の最多で、将棋界は本格的な「藤井1強時代」に入った。

終局後、藤井は「終わったばかりなので、、まだ実感がないところがある。今回の7番勝負の長い持ち時間で改めて勉強になることが多かった。今後にいかしたい」と謙虚に話した。

大記録のかかった第4局は先手の渡辺が角道を開けて矢倉に誘導。タイトル通算29期を誇る「魔王」が練りに練った作戦をぶつけてきた。バランスを重視した藤井は、急戦でも持久戦でも対応できる雁木(がんぎ)の陣形で応じた。お互いが研究手を繰り出し、1日目の昼食休憩まで61手と、ハイペースで進んだ。1日目午後はペースが落ち、わずか10手しか進まなかった。

2日目午前、藤井が後手4四銀(76手目)と指すと、渡辺は大長考に沈む。常識にとらわれない柔軟な一手に人工知能(AI)の将棋ソフトが示す評価値は、渡辺の優勢から藤井に傾いた。勝負どころについて「少しこちらの玉に耐久力ができたのかな」と振り返った。その後は、リードを少しずつ広げて勝ちきる横綱相撲だった。

王将を初奪取し、自身最多の5タイトルを同時に保持し、「レジェンド」の仲間入りを果たした。史上最強と言われた故・大山康晴15世名人、「棋界の太陽」と呼ばれた中原誠16世名人(74)、全7冠同時制覇など偉業を成し遂げた羽生善治九段(51)に次ぐ史上4人目となる5冠。10代で5冠を達成した先人はいなかった。

史上最年少5冠に「自分の実力を考えると、ここまでは出来過ぎかなと思う。今後、その立場の実力をつけていければと思います」と話した。

前人未到の全8冠制覇も期待される。来期、保持する叡王、棋聖、王位、竜王、王将の5冠を全て防衛。さらに王座、棋王を獲得すると7冠到達。残るは名人戦。現在の順位戦B級1組から来期A級に昇格し、1期目で挑戦権を獲得すると、23年上半期に全8冠制覇の可能性がある。「藤井8冠」が誕生する日は近いかもしれない。【松浦隆司】

◆将棋界の5冠と最初の達成時年齢 過去3人。第1号は故大山康晴15世名人。1963年(昭38)2月2日、39歳10カ月で達成した。獲得タイトルは名人・十段・王位・王将・棋聖。次いで中原誠16世名人(引退)が78年2月6日、30歳5カ月で同じタイトルを獲得。93年8月18日に羽生善治九段が史上最年少の22歳10カ月で達成。この時は竜王・王位・王座・棋王・棋聖を保持した。

◆先手藤井聡太(ふじい・そうた)2002年(平14)7月19日、愛知県瀬戸市生まれ。5歳で祖母から将棋を教わり、地元の教室に通う。杉本昌隆八段門下。16年10月、14歳2カ月の史上最年少でプロ(四段)に。史上5人目の中学生棋士。17年6月、デビューから負けなしの29連勝で、将棋界の連勝新記録を達成。18年2月、朝日杯で史上最年少の公式戦初制覇。20年7月、17歳11カ月の史上最年少で初タイトルとなる棋聖を獲得。翌月王位も奪取。21年7月、棋聖初防衛。タイトル通算3期獲得で九段昇段。王位防衛後、叡王と竜王を奪取。今年2月、王将も奪取して、19歳7カ月で最年少5冠に。21年の獲得賞金と対局料は6996万円で3位(20年は4554万円で4位)。

【王将戦7番勝負対局VTR】

◆第1局(1月9、10日、静岡県掛川市「掛川城 二の丸茶室」) 相掛かりとなった開幕局は、最終盤まで優劣不明のまま双方1分将棋の熱戦に。先手の藤井が最後に寄せ切り、139手で先勝。掛川対局6戦6勝の渡辺に土をつけた。

◆第2局(1月22、23日、大阪府高槻市「山水館」) 後手藤井が角換わりから、2日目に入って一気に攻めかかる。ほぼ一直線の「電車道」で午後4時15分、98手で圧勝。

◆第3局(1月29、30日、栃木県大田原市「ホテル花月」) 1局目同様、相掛かりの出だし。わずかにリードしていた後手渡辺が攻めあぐねたのに対し、20手以上の詰み筋を読み切った藤井が終盤の難解な攻防から抜け出し、135手で3連勝。

◆第4局(2月11、12日、東京都立川市「SORANO HOTEL」) 先手でかど番の渡辺が矢倉に望みを託すが、藤井はバランス重視で対応。攻めを封じながら徐々に押し返して盤を制圧する形で4連勝。初の王将を獲得し、史上最年少5冠に。