山口県阿武町が新型コロナ禍対策の臨時特別給付金10万円をめぐり、対象の全世帯相当分の計4630万円を誤って1世帯に振り込み回収できなくなっている問題で、町は12日、その世帯の男性を相手取り、全額の返還を求めて山口地裁萩支部に提訴した。法的にはどんな判断になるのか、甲南大名誉教授で弁護士の園田寿氏に聞いた。

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町の不当利得返還請求は、問題なく認められます。理由がないお金だから、男性は反論できない。次の段階で、町は勝訴判決に基づいて財産の差し押さえなど強制執行の手続きを取ると思うが、男性に財産がなければ、お金は返ってきません。

刑事上の判断がどうなるかは分かりません。96年に最高裁で、誤振り込みでも引き出す権利はあるが、民法上は不当利得であり、返還義務があるという民事判例が出た。なぜこんな判決が出たかというと、振り込みは迅速に資金移動する手段だが、膨大な件数を正しいかチェックするのは不可能で、一応は引き出す権利はあると。組戻しという手続きや不当利得返還請求などで救済されるわけです。

これで学説が分かれた。1つは、民事上は引き出す権利があっても、重大な事実を隠して引き出すのは詐欺罪に当たる。もう一方は、民事で引き出す権利があるなら犯罪の問題は生じないという考え方。最高裁は03年、誤振り込みの事実を知りながら金を引き出したケースで、民事上は引き出す権利はあっても詐欺罪だと認めた。しかし、今、どのような判断になるかは、分かりません。