岸田文雄首相は昨年10月の衆院選に続く連勝を手にした。午後9時45分すぎ、岸田氏は東京・永田町の党本部で麻生太郎副総裁らと凶弾に倒れた故安倍元首相に黙とうをささげた。弔意を表すため、当確候補者に恒例の赤いバラ付けではなく、ピンクのバラに変更された。笑顔はない。全国遊説で日焼けした首相は険しい表情を崩さず、お祝いムードはなかった。

弔意のバラは時間を追うごとに増え続けた。開票直後に首相が勝敗ラインとした自民党で改選55議席をクリアして70議席以上を確実とした。衆院、参院ともに過半数を占め、ねじれなく国会運営が可能となり、岸田氏は9月までに内閣改造、党役員人事を実施する。

参院選で2000年以降に自民党の最多獲得は第2次安倍政権が発足した翌13年の65議席だったが、それを上回った。全国13の複数区すべてで議席獲得を確実にした。安倍元首相が悲願とした改憲も視野に入ってきた。日本維新の会、国民民主党などの改憲勢力を合わせると、発議に必要な3分の2以上(166議席)に到達し、参院選後に改憲論議が加速しそうだ。

首相はフジテレビ番組で「喫緊で現代的な課題を自民党として提案している。ぜひ推し進めていかなければならない」と意欲を示した。

一方で火種もくすぶる。18歳の女子学生に飲酒させて「パパ活」と週刊誌に報じられ、離党した吉川赳衆院議員(比例東海)は岸田氏が率いる岸田派を退会したが、与野党からは事実関係の説明と議員辞職を求める声が相次ぐ。雲隠れを続ける吉川氏が求めに応じなければ岸田氏の責任論が噴出しかねない。

岸田政権は安倍元首相が率いる最大派閥の安倍派と、麻生氏が率いる麻生派が中心となって支えてきた。安倍氏の急逝で求心力を失った安倍派が混乱し、分裂の事態となれば党内政局に波及しかねず、政権運営への影響は避けられない。

与党圧勝の選挙結果となったが、18日間の選挙戦最終盤で安倍元首相が凶弾に倒れた。本来の争点である物価高対策や防衛費増額、憲法改正問題を熟議できたか疑問が残った。不安材料を残した自民党は、議員の数だけに頼る政権運営では国民から本当の意味での信頼は得られない。【大上悟】

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