将棋の第71期王座戦5番勝負で勝利し、史上初の全8冠独占を達成した藤井聡太王座(21=竜王・名人・王位・叡王・棋王・王将・棋聖)が12日、タイトル奪取から一夜明けて京都市で記者会見し、「まだまだ実感が湧かないが、うれしい」と喜びを語った。今後は怒濤(どとう)の防衛ロードが待ち受けているが、全冠保持の記録168日の「羽生超え」、タイトル戦19連勝の「大山超え」を視界にとらえる。

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歴史的偉業達成から一夜明け、藤井の表情は前夜よりもやわらかだった。ホテルスタッフから祝福の花束を贈られると、「ありがとうございます」と笑顔を見せた。「8冠」にあわせて両手の指を8本立てるポーズで撮影に応じた。「まだ実感が湧かないが、うれしい。これまで以上に将棋の内容に高いレベルが求められると思う」。誰も達していない境地にたどり着いた若き絶対王者が、新たな決意を語った。

自分へのご褒美はと問われると、少し長考し「勝ったときのご褒美は考えていなくて、むしろ勝ったときも負けたときも、モチベーションを保つことが大事と思っている。負けたときにどう気分をよくするかということを意識している」。藤井流の「勝負哲学」を明かした。

研究パートナーの永瀬前王座との今シリーズについて「第3局と第4局は苦しい将棋で逆のスコアでもおかしくなかった。幸運だった」と振り返った。20年の初タイトル獲得以降、18度のタイトル戦では1度も敗退することなく18連勝。「不敗神話」は続く。

昭和のレジェンド・故大山康晴15世名人の大記録を視界にとらえる。タイトル戦の最長記録は1963年(昭38)の第22期名人戦から66年の第25期名人戦まで達成した19連勝がある。

現在、藤井は竜王戦7番勝負で挑戦者に同学年の伊藤匠七段(21)を迎え、対戦成績は藤井の1勝0敗。竜王戦3連覇を果たせば、タイトル戦は19連勝となる。年内に挑戦者が決まる第73期王将戦7番勝負が来年1月早々、第49期棋王戦5番勝負が同2月上旬から始まる予定。どちらかを先に防衛すれば20連勝となり、「大山超え」となる。

さらに「羽生超え」の可能性もある。96年2月、全7冠制覇を果たした羽生善治現九段は、同年7月に棋聖を失った。全冠を保持した期間は168日だった。藤井が8冠を達成した23年10月11日から168日後は、来年3月26日。例年のタイトル戦の開催日程からいけば、王将戦か棋王戦の最終局が行われる時期になる。

全8冠を維持する「羽生超え」に藤井は「(保持する期間の)目標は全く考えていない。竜王戦も始まっているし、これからの番勝負をできる限り、いい内容のものにしたい」。待ち受ける怒濤(どとう)の防衛ロードでも、ハイレベルな将棋を披露する。【松浦隆司、赤塚辰浩】