ヴィクトリアM(G1、芝1600メートル、12日=東京)の最終追い切りが8日、東西トレセンで行われた。調教を深掘りする「追い切りの番人」では藤本真育(マイク)記者が、昨年のマイルCS覇者ナミュール(牝5、高野)に注目した。近走の充実ぶりを支えるのは、昨秋から取り入れた「馬なり主体」の調教だ。肉体面の負荷を軽減し、競馬に対する前向きさを促進。後輩ジャンタルマンタル(牡3)のNHKマイルC制覇に続く、厩舎2週連続G1勝利に期待が高まる。

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迫力ある脚さばきだった。坂路で4ハロン54秒0-12秒0。最後はスッと加速し、極上の切れ味をのぞかせた。高野師は「終わった後の表情、歩様も良かった。間違いなく力は出せる状態」と太鼓判を押す。

昨年の4歳秋から今春にかけて覚醒した。特筆すべきは「タフさ」を手に入れたこと。4走前の富士Sを勝利し、中3週のマイルCSでG1初制覇。その後、中2週の海外初遠征・香港マイルでも3着と好走した。対照的に4歳春までは、中4週以内のローテでは【0 0 0 4】だった。間隔が詰まっても結果を出せるようになった背景には「調整過程の変更」が大きく関わっている。

年齢を重ねて体質が強くなると追い切りで強い負荷を課すのが一般的だが、ナミュールは逆に負荷を軽くした。昨春までは坂路でびっしり追われることも少なくなかったが、昨秋以降は「馬なり主体」。調教時計の平均(1週前&当週追いの平均時計で、全て坂路。海外レース時は除く)を調べると、昨春の安田記念までは4ハロン54秒2。昨秋富士S以降は同55秒6と1秒4も遅い。

高野師 競走馬は人間のアスリートと違い、勝つことにモチベーションがありません。なので僕は、競走馬に対し、とにかく元気に、楽しく過ごしてほしいと思ってます。この調教で体への負荷は十分ですし、精神とのバランスを考え、これでいいと判断してます。

NHKマイルCを勝った僚馬ジャンタルマンタルも、中2週での連続関東遠征という厳しい臨戦過程を克服した。ナミュール同様、心身のバランスを第一に考えた“高野流”の調整方法で結果を出したのだ。

栗東に帰厩する前は、1週間に1回は牧場に通い、外見、歩様などをチェック。育成牧場と連携し、今回も仕上げは万全にしてきた。「昨年よりも断然いいですし、充実しています。走ってくれないと、と思える状態です」。

充実期を迎え、その上で最適と思える調整方法を手に入れた今、ナミュールに死角はない。【藤本真育】

◆マイクの目 序盤は鞍上とのコンタクトをしっかりと取り、ゴール板に向けて徐々に加速。最後は脚の回転をもう一段階上げて、パワフルな動きを見せた。

◆ヴィクトリアMの前走海外遠征組 過去10頭が出走し、09年ウオッカ(前走ドバイデューティフリー7着)、10年ブエナビスタ(前走ドバイシーマC2着)、23年ソングライン(前走1351ターフスプリント10着)の3頭が勝利している。【3 2 0 5】で勝率30%、連対率50%と優秀だ。