先日、自転車に乗っていて交通事故に巻き込まれて亡くなったニッキー・ヘイデンに捧げられた展示
先日、自転車に乗っていて交通事故に巻き込まれて亡くなったニッキー・ヘイデンに捧げられた展示

ヤマハ、ホンダ、スズキ、カワサキ

 モータースポーツは門外漢だけど(毎度の書き出しで失礼)、一昨年のオートバイのレース、MotoGPサンマリノ・グランプリに続いて、フィレンツェ近郊にあるムジェロ・サーキットで行われたイタリア・グランプリを観戦する機会を得た。

ムジェロ・サーキット入口。皆さん、自撮りしてました
ムジェロ・サーキット入口。皆さん、自撮りしてました

 シャープや東芝の経営破たん問題で毎日のように「日本の技術流出がー!!」などと耳だこ状態になっていたけれど、MotoGPの世界を知ると、「日本の技術は家電やITだけじゃあない!」というのがよくわかる。

 なにしろサーキットは右を見ても左を見ても日本企業ばかり。オートバイ本体はヤマハ、ホンダ、スズキ、カワサキ。ヘルメットはARAIにSHOEI。レーシングスーツはRS TAICHI。パドックには、メカニックを含めて日本人スタッフがあふれかえっている。

コースに向かう人の波。ほぼ全員がロッシのトレードカラーである黄色のTシャツか彼のナンバー46番と書かれたグッズを身に着けていた
コースに向かう人の波。ほぼ全員がロッシのトレードカラーである黄色のTシャツか彼のナンバー46番と書かれたグッズを身に着けていた

激しい日本国内と世界との乖離

 オートバイの世界ほど、日本国内と世界との乖離が激しいものもないんじゃあないかと思う。

 MotoGPレースは、排気量別に250CCクラスのMoto3、600CCのMoto2、そして、1000CCのMotoGPになっていて、フォーミュラカーがF1を頂点にF4までクラス分けされているのと同じだ。

 現在、MotoGPには日本のライダーはいないけど、この日もMoto3では佐々木歩夢と鈴木竜生が一時期2、3位でバトルを繰り広げイタリアのテレビには2つの日の丸が(ライダーの国籍を表す)が翻り胸熱状態になったし、Moto2には長島哲太や中上貴晶が出場し、とくに中上は決勝では5番手スタートだった(事故に巻き込まれて1週目でリタイア)。

ヤマハのパドック裏。皆さん、ヴァレンティノ・ロッシを待ってます
ヤマハのパドック裏。皆さん、ヴァレンティノ・ロッシを待ってます

ムジェロ・サーキットが黄色に

 で、ムジェロ・サーキットの話。

 このムジェロはかつてかつてイタリアのヴァレンティノ・ロッシが7年連続チャンピオンになった記念すべきコースだけにスタンドは彼のトレードカラーであるイエローで埋め尽くされ、レースが始まるや黄色い発煙筒もたかれサーキット全体がイエローで埋め尽くされた。

 イタリアにおけるロッシの人気は、もはやオートバイレースの世界を完全に離れて、レースを見たことがない小学生の女の子でも「憧れの人」にはロッシの名前をあげるほどだ。ほとんど神格化された存在といっていい。

パドックにいる人々が唯一、レースを観戦できるコーナー。観客とパドックは完全に分けられている
パドックにいる人々が唯一、レースを観戦できるコーナー。観客とパドックは完全に分けられている

周りに何もない丘陵地の真ん中

 これまで取材にてF1のモンツァ、サンマリノ・グランプリのミサノを訪れたことがあるけれど、このムジェロはトスカーナ地方の丘陵地の真ん中にあり、なんとものんびりとしたサーキットだ。周囲に鉄道の駅はなく、駅どころか宿泊施設も非常に限られていて、サーキットに至る道がどこも狭いため大変な交通渋滞を引き起こす。そんな事情からバイクや、さらにはスクーターにテントを積んで野宿しながら観戦する若者たちも目立つ。

 ゲートの周辺に住宅地が立ち並ぶミサノやモンツァとは大違いだ。

 コースはイタリアで2番目に長いストレートが特徴で、MotoGPクラスでは350キロもの速度が出る。某ライダーが「ここのストレートはMoto2でも300キロくらい出るし、車体が浮く感じさえする」とコースの難しさを語っていた。

こちらはチケットが手に入らずに上記のコーナーをコースの外から見ている人々
こちらはチケットが手に入らずに上記のコーナーをコースの外から見ている人々

スロー再生も中継の醍醐味

 以前、ミサノではスタンド前のストレートだけしか見られなかったので、MotoGP自体のレース展開がよくわからなかったけど、実際に全体を見ていると激しく抜きつ抜かれつするし、ストレートからのブレーキ、そしてコーナーリングの技術がわかるようになると面白さも増してくる。

 よくアメリカ人は順位の移動が多くないF1を見るのが退屈なので、アメリカではオーバルコース(楕円形コース)のインディ500の方が人気があるというけど、たしかに、もはやマシンが大きくなりすぎてデッドヒートとは無縁となったF1モナコGPなんかに比べたら、MotoGPは見ていて面白い。これには昨今の4Kスローモーション技術も貢献していると思われる。抜きつ抜かれつするシーンのスロー再生はMotoGPのテレビ中継の醍醐味のひとつだ。

帰りの様子。近郊の町プラートのホテルから何もなければ40分で行けるところを往路は2時間、帰りはなんと4時間半かかりました
帰りの様子。近郊の町プラートのホテルから何もなければ40分で行けるところを往路は2時間、帰りはなんと4時間半かかりました

選手もスタッフもレース愛

 今回はパドックばかりウロウロしていたけど、ライダーも含めてチーム関係者の方々がとても親切だったのには驚いた。もっと真剣勝負中だから、ピリピリしているのかと思ったが、部外者がいても怒鳴られることなどは皆無だった。もちろん、お金のかかった真剣勝負には違いないけど、それ以前に関わる人々がレースそのものが好きなのだろうなと感じられる。

 この後、MotoGPは秋にサンマリノに戻ってくる。今年はテレビ観戦も含めて、しばらくMotoGPを追いかけてみようかな。(イタリア・ミラノ在住・新津隆夫。写真も)