新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、日本でもようやく安倍首相が7日に緊急事態宣言を出しましたが、報道でもご存知の通り、ここアメリカやイタリアなど欧州の国とはその性質は大きく異なっています。罰則を伴う外出禁止命令などはなく、休業も要請に留まるため、日本に暮らす知り合いからは「今までと何も変わらない」という声を聞きました。日本では「3密(密閉、密集、密接)」を避けるよう言われていますが、欧米諸国ではとにかく人との接触を極力減らすことを実践しています。ここアメリカでも自覚のない無症状患者からの感染を防ぐのに一定の効果があると言われる社会的距離と呼ばれる「ソーシャル・ディスタンシング」が徹底されています。

観光地としても人気のサンタモニカピアへの入り口も封鎖されています
観光地としても人気のサンタモニカピアへの入り口も封鎖されています

3月19日に自宅待機命令が出されたここロサンゼルス(LA)では、この3週間で人々の生活は激変しました。これまでの常識は180度覆り、まったく新しい世界が始まったと言っても過言ではないほど目に見えて人々の生活が変っています。「ノンエッセンシャル・ビジネス」と呼ばれる生活に直接支障をきたさないビジネスは全て閉鎖され、街から人と車が消えたLAでこの3週間の間にどのような変化があったのか2回に分けて紹介したいと思います。様々な政策や対策は日々変化し、厳しさが日に日に増しています。昨日までOKだったことが翌日には禁止されることも珍しくありません。第1回目はこの3週間の間で変化したカリフォルニア州やLA市の政策や対策をまとめてみました。

レジの列には立ち位置がしるされています
レジの列には立ち位置がしるされています

●ソーシャル・ディスタンシング

公共の場でのソーシャル・ディスタンシングは徹底され、日に日に厳しくなっています。当初は生活に必要な場として認められていたファーマーズ・マーケットも大勢の買い物客で賑わっていたことが分かると、LA市長はすぐさま中止を要請。農家の生活と新鮮な食材の購入は市民生活に必要不可欠だとして最終的には、ソーシャル・ディスタンシングを徹底する対策を取ることを条件に再開を認めました。出店数を減らして店と店の間隔を広く開け、フードトラックなど調理した料理の提供は中止、農家が生産したものだけに限定するなどの措置が取られ、大規模なマーケットでは出口と入り口を分けて1カ所に制限して入場数を制限。お金のやり取りをする人と商品に触る人を分けたり、トングやゴム手袋の着用で素手で直接商品に触らないなど徹底した対策が講じられています。また、スーパーマーケットでも一度に店内に入れる客の人数を制限。店の前やレジには6フィート(1.8m)ごとに立ち位置が印されており、立ち位置に並ぶ必要があります。店内でも客同士の接触を減らすため、通路を一方通行にする対策なども取られ始めました。また、今では買い物は家族連れではなく、できるだけ1人で行くことも求められています。

マスク姿で買い物する人
マスク姿で買い物する人

●「マスクに予防効果ない」から一転してマスク着用が義務に

日本では全世帯に2枚の布製マスクが配布されることが大きな話題となりましたが、ここLAではつい最近まで「マスクには予防効果はない」「医療従事者のため(医療現場でのマスク不足への対応)に元気な人はマスクの着用を避けるべき」と言った論調で、まだマスクをしていない人が大半でしたが、LA市では10日から生活必需品の買い出しに出かける際にはマスクを着用することを義務化。違反した場合は入店を拒否される他、罰金を科せられる可能性もあります。ここLAでもマスクは入手困難でオンラインで注文してもいつ届くか分からないような状態ですが、マスクの代わりにバンダナやスカーフで口と鼻を覆うことが推奨されています。LA近郊のリバーサイド郡では、公共の場でマスクやバンダナ等を着用していない場合は1000ドルの罰金が科せられるより厳しい措置が取られています。

LAではマスク着用が義務化。公共の場では医療用マスク以外のバンダナ等で口や鼻を覆うよう求めています
LAではマスク着用が義務化。公共の場では医療用マスク以外のバンダナ等で口や鼻を覆うよう求めています

●公園もビーチや登山道も閉鎖

自宅待機命令が出された当初は、公園もビーチ沿いの遊歩道もハイキングコースも閉鎖されておらず、「健康のための散歩やジョギングやハイキングなど外での運動」は認められていたので、自由に訪れることができました。しかし、最初の週末に多くの市民がこれらの場所に殺到し、一部のビーチやハイキングコースで大混雑が見られたことを受け、すぐさま閉鎖の対策が取られました。ビーチ沿いの遊歩道のみならず、LAの人たちの憩いの場であったビーチそのものへの立ち入りも禁止され、サーフィンを楽しんでいた若者が罰金を取られたとニュースになるほど、今では厳しい取り締まりが行われています。散歩中も複数人で立ち止まって話をしたり、バスケットボールコートなどで集まることも禁止され、ドローンによるパトロールも行われるようになりました。

ビーチシティーLAのビーチは全て閉鎖で、立ち入りが禁止されています
ビーチシティーLAのビーチは全て閉鎖で、立ち入りが禁止されています

●営業を続ける必要不可欠ではない事業主には水道や電気を止める強制措置も

ノンエッセンシャル・ビジネスのガイドラインはしっかりと示されているため、これらの店舗は休業命令に従わなければなりません。それでも最初の週にはいくつか営業を続ける店を見かけましたが、数日後にはそうした店もほぼなくなりました。要請に従わない場合は、罰金や刑事罰が科せられ、水道や電気などインフラを遮断するとLA市長が会見で公言。その後、スモークショップ(たばこ店)や靴屋などが摘発されたことがニュースになりました。

店の前で野菜の販売をするレストラン
店の前で野菜の販売をするレストラン

●レストランへの規制緩和

LAではアルコール類のテイクアウトはこれまで法律で認められていませんでしたが、長引く店内飲食禁止例による救済のためにアルコール類の持ち帰り販売やデリバリーが可能になりました。ドライブスルーも対象となり、ワインやビールだけでなく、プラスチックカップ入りのカクテルなども持ち帰りができるようになりました。また、レストランやカフェを一時的にマーケットとして食材やトイレットペーパーなど生活必需品の販売をすることも認めています。これにより、混雑するスーパーマーケットに行かなくても買い物ができるようになり、より感染リスクを減らすことができると考えられています。

スーパーマーケットのレジに設置された感染防止対策のプラスチックの防護壁にはエコバッグ利用禁止の張り紙が
スーパーマーケットのレジに設置された感染防止対策のプラスチックの防護壁にはエコバッグ利用禁止の張り紙が

●スーパーの従業員を守る対策が強化

多くのスーパーマーケットやドラッグストアでは、感染リスクの高いレジや商品補充に当たる従業員は時給を上乗せして人材を確保していますが、今ではいかに従業員を感染から守るかに大きなウエートが置かれています。客と従業員の間にプラスチックの防護壁が設置されたり、ウイルスが付着しているかもしれないエコバッグの持ち込みが禁止されたり、従業員にマスク着用と30分ごとに手洗いさせることも義務付けられました。

(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」、写真も)