7月に書いた予土線の旅では、他にも高知県内を回った。JR四国には「バースデイきっぷ」という無双の切符があり、これまで行けなかった駅と路線へ。スイッチバックの「新改駅」そして鉄橋上の「土佐北川駅」。いずれも鉄道ファンには有名な駅ではあるが、私は初訪問。空腹時に思わぬふれあいもあり、雨の煩わしさも吹き飛んだ旅となった。(7月13日来訪)



誕生日月の3日間、JR四国全線が特急も含めて乗り放題、さらには土佐くろしお鉄道と阿佐海岸鉄道も乗り放題という大変お得な「バースデイきっぷ」(※)。四国内を回る時は、必ず誕生月の7月に行くと決めている。

JR西日本との境界駅である児島から特急で降りたったのは大歩危駅〈写真1〉。大歩危小歩危で有名な観光拠点で土讃線では徳島県最後の駅となる。ここから普通に乗り換え。すべての特急が停車する駅は大歩危の次が土佐山田となるが、目的地はその間にある。ただ特急が1時間に1本の割合であるのに対して普通の本数は極めて少ない。時刻表が手放せないコースとなる。約1時間、乗客数人の列車に揺られて到着したのが新改駅だ〈写真2〉。


〈1〉観光拠点の大歩危駅
〈1〉観光拠点の大歩危駅
〈2〉新改駅に到着
〈2〉新改駅に到着

実は20年以上前に来たことがある。ただし車で。当時、高知自動車道は高知市の手前の南国インターまでしか完成しておらず、市内まで20分ほど一般道を走る必要があったのだが、ここ新改駅も同じぐらいの時間だったので立ち寄ってみた。四国のスイッチバックといえば、同じ土讃線の坪尻駅〈写真3〉の方が有名だが、その理由として坪尻は隔絶された場所にあり、車では近づけないことがある。それに対し新改は近くに街があり、車でも行ける-はずだったが、昨夏の豪雨で道路が大きな被害を受け、私が訪問した7月中旬は事実上、車では行けない駅となっていた〈写真4、5〉。


〈3〉土讃線りもうひとつのスイッチバック駅、坪尻(2013年7月撮影)
〈3〉土讃線りもうひとつのスイッチバック駅、坪尻(2013年7月撮影)
〈4〉道路通行止めを示す案内。迂回路は山道を車で30分以上かかる
〈4〉道路通行止めを示す案内。迂回路は山道を車で30分以上かかる
〈5〉新改の駅舎
〈5〉新改の駅舎

7月の高知だというのに息が白くなる強い雨の中、降りたのは私1人。青春18きっぷの季節でないので、こうなる確率が高い。20分後に上り列車がやって来る。1日4往復半しか止まらないダイヤで貴重な上り下りの接近帯である〈写真6〉。ワンマン運転の運転士さんが車内を横切り逆方向に出発して到着。再び運転士さんが移動すると列車は去っていった。6月の飯田線の小和田駅と同じく駅を独り占め。


〈6〉新改駅の時刻表。上下合わせて9本の列車しか来ない
〈6〉新改駅の時刻表。上下合わせて9本の列車しか来ない

次の上り列車に乗り込み目指したのが約20分で到着の土佐北川駅〈写真7、8〉。約30年前、コース変更で鉄橋上の駅となり、特急列車などの行き違いに備えたホームの有効長は長いが、駅の利用者が雨をしのぐ屋根は実に短い(階段を下りると待合室がある)〈写真9、10〉。30年前から既にこれだけのスペースで十分だったのだろう。


〈7〉雨の中、土佐北川駅に到着した
〈7〉雨の中、土佐北川駅に到着した
〈8〉鉄橋の上にある土佐北川駅
〈8〉鉄橋の上にある土佐北川駅
〈9〉鉄橋上にある土佐北川駅へは当然階段で
〈9〉鉄橋上にある土佐北川駅へは当然階段で
〈10〉ホームの下に待合室がある
〈10〉ホームの下に待合室がある

私を含めて2人が下車。地元の方のようで写真を撮っている私を尻目に消えていった。ここでは45分の待ち時間。で、おなかがすいてきた。もちろんコンビニなどない。こんな時は甘めの飲料で胃袋をごまかすのがいつもの作戦。駅から見下ろすと自販機が見える。それだけでもありがたいと降りると、そこには食堂が営業中で少しびっくりしたが、考えてみると山中の駅ではあるが、目の前は幹線の国道32号で車がビュンビュン走る。食堂があっても不思議ではない。


〈11〉土佐北川駅近くの食堂で昼食。素朴な味がおいしかった
〈11〉土佐北川駅近くの食堂で昼食。素朴な味がおいしかった

本当にいわゆる「食堂」で、肉じゃがと切り干し大根を棚からとり、ご飯とみそ汁を注文〈写真11〉。温かいみそ汁が雨でぬれた身体に染み入る。食後のコーヒーなんてものもあり、お店のお母さんと、しばし雑談。町の昔話、病院事情など。そのうち「3時2分に乗るんだろ。逃すと大変だから遅れないように」(高知弁を正確に再現できないので標準語にしてあります)と促されて店を出た。さすが列車のダイヤまで正確に記憶していらっしゃる。ちなみに15時2分の次は18時5分である。

ちょっと幸せな気分になりながら、下り列車に乗車。もう1度新改のスイッチバックを体感して高知へと向かった。【高木茂久】


※グリーン車を利用できるグリーン車用(1万3000円)と普通車自由席用(9000円)があり、グリーン車用は普通指定席にも使える(JR四国にはグリーン車がない特急もある)。JR四国のみどりの窓口とワーププラザで購入可能。使用当日でも買えて運転免許など公的に生年月日を示すものが必要。今回はあまり特急に乗らないため、普通自由席用を購入。新改から高知を経て土佐くろしお鉄道で宿毛に行き、翌日は予土線を細かく乗ったため、乗車券は1万6360円分、特急券は6110円分をそれぞれ乗車した。