山万ユーカリが丘線は千葉県佐倉市を走る新交通システムである。京成電鉄との接続駅となるユーカリが丘駅からニュータウン内をグルリと回って約15分という短い路線だが、ニュータウンであるユーカリが丘の住民の足として約40年にわたって活躍してきた。なんといっても「他業種からの鉄道事業参加」という実に貴重な路線なのだ。(訪問は6月30日)

京成電鉄のユーカリが丘駅の改札口を出るとぬれることなくユーカリが丘線の改札口に向かうことができる(写真1~4)。

〈1〉ユーカリが丘駅の南口。ユーカリが丘線の乗り換えは北口
〈1〉ユーカリが丘駅の南口。ユーカリが丘線の乗り換えは北口
〈2〉ユーカリが丘線への乗換口
〈2〉ユーカリが丘線への乗換口
〈3〉山万ユーカリが丘線の駅舎
〈3〉山万ユーカリが丘線の駅舎
〈4〉ユーカリが丘駅の改札口
〈4〉ユーカリが丘駅の改札口

ちなみに京成の駅が開業したのは1982年の11月1日でユーカリが丘線の開業は翌2日だから、ほぼ同時ということになる。(※)

窓口で500円の1日乗車券を購入(写真5)。

〈5〉ユーカリが丘線の1日乗車券
〈5〉ユーカリが丘線の1日乗車券

ユーカリが丘線は1区間でも全区間でも料金は一律200円なので3回乗れば元がとれるのでお得だ。かわいい車両がやって来た。乗車したのは「こあら3号」。ユーカリが丘線を走る車両はいずれも3両編成で、こあら1、2、3号の3編成。ユーカリといえば、コアラの主食として知られる。ユーカリが丘だからコアラ。実に分かりやすい(写真6)。

〈6〉ユーカリが丘駅に入線したこあら3号
〈6〉ユーカリが丘駅に入線したこあら3号

最初の駅は「地区センター」。最初の駅といっても、駅間わずか600メートル。鉄路に沿って道路が走り、歩いてもすぐ。そんなことを言い出すと、すべての駅がそうなのだが、新交通システムならではの専用軌道からの車窓を見ながら、ゆっくりホームに滑り込んでいく感覚はまた別物だ(写真7、8)。

〈7〉地区センター駅は商業施設と直結している
〈7〉地区センター駅は商業施設と直結している
〈8〉地区センターの駅名標。ここでは一方通行ではないので両側の駅名が書かれている
〈8〉地区センターの駅名標。ここでは一方通行ではないので両側の駅名が書かれている

駅名が出たところでユーカリが丘線の他の駅名を順番に記すと「公園」「女子大」「中学校」「井野」。一般的な駅のイメージからすると「○○前」となりそうなものだが、かつての地名だった井野以外は、施設がそのまま駅名。しかも「○○公園」や「○○中学校」ではなく、単に「公園」「中学校」というのが実にユニークで、なおかつすがすがしい。改名の話が出たこともあったが「すでになじまれている」と、そのままになっているという。

ただ、これ以上にユニークな点がさらにある。この路線を運営しているのは、鉄道会社ではなく「山万株式会社」という不動産会社なのだ。異業種が鉄道会社を運営している例は少なからずある。だが「経営難となった鉄道会社に経営参入」という形がほとんど。この場合、鉄道運行のノウハウは既にあるわけで、全くの新規参入は珍しい。

しかも専用軌道を設置し専用車両が用意された。完全に新規路線なのだ。ちなみに1981年に神戸のポートライナーで導入されたゴムタイヤで走る新交通システムは各地で見られるが、側面に案内レールを設けるのではなく中央に案内レールを設ける方式は、現在ここだけ。車体を小型化できる利点があると同時に、外からも車両全体が見られる楽しさがある。

ユーカリが丘ニュータウンは山万が開発した。鉄道が沿線で不動産開発と販売を手がけた例は枚挙にいとまがないが、不動産会社が宅地開発を行い、鉄道まで整備するのは極めて珍しい。もちろん異例のことなので導入にあたっては、お上がすんなり許可したわけではなくバス路線設置の話もあったようだが、静かな新交通システムにこだわり、開業へと至ったという。

次の駅は「公園」。ユーカリが丘線で唯一、複数ホームがある。ユーカリが丘駅を出発した車両はラケット状の路線を反時計回りで進むのだが、公園までがラケットの柄の部分。ここから先がフェース部分になり、弧を描いて公園に戻ってくるため、この駅のみ上下線がある(写真9、10)。

〈9〉公園駅の駅舎
〈9〉公園駅の駅舎
〈10〉公園駅の改札口
〈10〉公園駅の改札口

またその形態のため、始発駅のユーカリが丘を出た列車は1回の運行ごとに出発時と終着時には、前と後ろが逆になる、これもまた珍しい形式となっている。この駅ではユーカリが丘線をつかさどる指令室が置かれ、途中駅で唯一の有人駅。駅のそばには駅名の由来になったユーカリが丘南公園。住宅街を走るユーカリが丘線だが、線路の内側は農地などが広がっており、まるでローカル線のような風景が広がるのも路線の特徴である。【高木茂久】(写真11)

〈11〉駅名の由来となった公園が広がる
〈11〉駅名の由来となった公園が広がる

※この時点では中学校までの開通。全線開通は翌年の9月。今年の9月で全線開通から38年となった。