昨春の青春18きっぷのシーズンでは姫新線(姫路~新見)と福塩線(福山~塩町)を訪問した。今年はいよいよ芸備線である。岡山県の備中神代(事実上の起点は新見)から広島県の山中を経て広島へと至る約160キロもの長大路線は全線非電化単線で、広島市への通勤通学圏内以外は閑散区間。特に広島県の東側にあたる東城~備後落合は1日たった3往復しかないことで知られる。まずは備中神代から西へ向けてスタートである。(訪問は3月15、16日。バスの時刻は時刻表に基づく)

 
 

まずは芸備線のダイヤについて説明しよう。1日3往復しかない東城~備後落合は、すべて新見~備後落合の運行である。これ以外に新見~東城という主に岡山県内をつかさどる区間運転が3本(うち1本は平日のみの運行)。「東城~備後落合は列車が半減する」と表現されることがあるが、なんのことはない、6本と3本という厳しいダイヤなのだ(確かに半減ではあるが)。(写真1、2)

〈1〉備中神代駅にあったローカル線乗車を促すポスター
〈1〉備中神代駅にあったローカル線乗車を促すポスター
〈2〉国鉄電車が並ぶ岡山駅ならではの光景
〈2〉国鉄電車が並ぶ岡山駅ならではの光景

しかも3往復部分にフォーカスすると、新見発が5時17分、13時2分、18時25分。いずれも備後落合で約10~20分停車して新見へ折り返してくる。「始発」に乗るには沿線に宿泊するしかなく、「最終」は備後落合から先の接続がない上、車窓も暗闇。駅訪問にも向いていない。つまり鉄道ファンとしては13時2分の一択なのだ(こちらは備後落合で三次、広島方面や木次線に接続する)。

ただこれでは乗り鉄はできても駅訪問はできない。となると、いつものバス&徒歩の出番である。芸備線の起点である備中神代からのバスがあるようだ。ただ全体的にバスの本数も多いわけではなく、1日2本などという「多くはない」どころか極小レベル。

まず備中神代までたどり着くのが最初の壁。芸備線の起点だが列車はすべて新見の始発着。新見には全営業列車が停車するが備中神代は普通のみ。伯備線は1時間に1本の特急が走行する幹線だが、普通については、新見~生山という県境またぎ区間の本数は1日8往復しかなく、日中は3時間ほど運行がない時間帯もある。新見~備中神代はJRでわずか1駅だが、途中に山越えが入るため、バスも1日1・5往復で時間的にもちょっと使いにくい。当日朝に新幹線と特急で備中神代にたどり着ける最短時間は11時2分。当駅発で芸備線沿いに走るバスを調べると…。

11時1分発!(オイ)

参った。この嫌がらせのような時間は何だろう。しかし、ここを逃すと件(くだん)の13時2分新見発まで何もなく、今日はほとんどどこにも行けなくなる。これは新見からタクシーで行くしかないのか。しかし初手から4000円もかかる(料金検索サイトによる)タクシー代を使うのは、いかがなものか、と時刻表とにらめっこしていると、ひとつの案を見つけた。

◆新神戸6時13分→(岡山経由)→生山8時38分

西へ向かう際の定番列車となっている始発の「みずほ」に乗車。岡山から「やくも」で生山に着いた。新見から30キロも離れている。というか、ここは鳥取県である。なぜこのような行動をとったかというと、戻る形で10分後に新見行き普通が来るからだ。実は生山で降りるのは初めて。日南町の中心駅。昨年にみどりの窓口が閉鎖されて無人駅となったが、交流施設と合築の大きな駅だ。せっかく来たのだから、もう少し駅周辺を味わいたいところだが、やむを得ない。普通に乗って来た線路を戻る。(写真3、4)

〈3〉「やくも」で生山駅に到着
〈3〉「やくも」で生山駅に到着
〈4〉生山の駅舎
〈4〉生山の駅舎

◆生山8時48分→備中神代9時42分

1時間近くも戻る形で備中神代に到着。何をやっているのか、われながらよく分からないが、まずはバス停に向かう。両方向2便ずつという、なかなか魅力的な時刻表だが、これは私が予定するものではない。11時1分と記されたバス停を探すもののない。地方では「○○駅」のバス停が駅から離れているのはよくあることだが、一体どこにあるのだろう。すると駅近くの車の整備場のようなところに新見市営バスと記されたワゴン車を発見。中にいる方に声をかけると「11時に駅前で待っていて」。事情は分からないが、とにかく駅前にいればいいようだ。(写真5、6)

〈5〉バス停はあったが時刻表は求めていたものではなかった
〈5〉バス停はあったが時刻表は求めていたものではなかった
〈6〉私が乗るはずのバスがあった
〈6〉私が乗るはずのバスがあった

あらためて駅に戻る。最近よく見かける簡易駅のようで、そうではない不思議な構造。20年前、もともとあった木造駅舎を解体する際、駅舎の入り口部分が残された。待合室にも窓口部分が残されている。2面3線構造で2面は伯備線、架線のない1面が芸備線。0キロポストはこちらにある。(写真7~10)

〈7〉芸備線の起点となる備中神代駅
〈7〉芸備線の起点となる備中神代駅
〈8〉架線がないのが芸備線ホーム。0キロポストがある
〈8〉架線がないのが芸備線ホーム。0キロポストがある
〈9〉芸備線ホームは単線扱い。上下列車とも同じホームで発着する
〈9〉芸備線ホームは単線扱い。上下列車とも同じホームで発着する
〈10〉待合室には旧駅舎の窓口が残されている
〈10〉待合室には旧駅舎の窓口が残されている

時間があるので神代の街を少し散策。踏切を越えて数分歩いたところが街の中心部のようだ。駅前で見つけられなかった飲料水の自販機を見つける。気温も上がってきたところで良かった。やがて11時。バスが来た。客は私1人。やれやれと乗り込むと意外な言葉が返ってきた。(写真11、12)

〈11〉備中神代の駅名標。伯備線バージョン
〈11〉備中神代の駅名標。伯備線バージョン
〈12〉芸備線バージョン。布原は伯備線の駅だが芸備線の列車しか停車しないのでこちらにしか記されていない
〈12〉芸備線バージョン。布原は伯備線の駅だが芸備線の列車しか停車しないのでこちらにしか記されていない

◆(バス)神代駅前11時1分→坂根駅前11時11分

「電車の接続待ちするから少し待ってて」

「はぁ?」

である。もちろん「時刻表には電車より1分先にバスが出ることになってますけど」と尋ねた。

「ああ、あれね。ホームページの更新が遅れているみたい」

「……」

なかなか牧歌的な話ではある。考えてみると1日2本しかないバスが1分差で先に出発というのは、あまりに無情だ。事前に電話でもすればよかった。だったら2時間ほど睡眠時間を増やせたのに…と多少は思ったが、恨み言を言ってもしょうがない。基本的には地元の方の足なので、いつも利用する方が分かっていれば、それでいいのである。それに、もしこの接続で訪問すると、すぐの出発なので駅舎の写真を1枚撮るのが精いっぱいだったはず。(写真13、14)

〈13〉バス停で1つ分歩くと神代の中心地。こちらのバス停にも時刻表の掲載はなかった
〈13〉バス停で1つ分歩くと神代の中心地。こちらのバス停にも時刻表の掲載はなかった
〈14〉JAの前で自販機に出会う。大いに助かった
〈14〉JAの前で自販機に出会う。大いに助かった

「坂根駅の近くで降りたいんですけど」と言うと「撮り鉄の方?」。途中、地元のお年寄りが乗ったり降りたりした。運転手さんも皆さんと顔見知りのようだ。そんな中に見知らぬ男が乗ってきて「坂根駅まで」と言う。鉄道好きだということは容易に想像できる。私は撮り鉄ではないが説明も難しいので「まぁ、そんなものです」。「以前はSLを撮りに神代から布原まで歩く人がよくいたなぁ」という会話で結構盛り上がり「ハイ、向こうが坂根駅」と降りた場所で私は少し固まってしまった。【高木茂久】(写真15~17)

〈15〉備中神代には留置線が残る
〈15〉備中神代には留置線が残る
〈16〉駅開設50年の石碑が残る
〈16〉駅開設50年の石碑が残る
〈17〉待望のバスがやってきた
〈17〉待望のバスがやってきた