春うらら-山梨・富士五湖の奥座敷、精進湖にはそんな言葉がよく似合う。寒いはずの2月なのに現地では「暑いぐらいだねぇ」「汗かいちゃうよ」との会話が飛び交っている。そんなほんわかした精進湖に日刊スポーツの業務系アラフィフ男3人が2月25日、生まれて初めてのワカサギ釣りに訪れた。都会で疲れちゃったお父さん、精進湖の大自然に飛び込んでこい!
路面はぬれていた。空は少しずつ明るみ始めていた。シャー。道路上のしずくをタイヤがはじく。白い霧が立ちこめていた。標高900メートルの涼やかさとは対照的に車内は重い空気が漂っていた。社命でアラフィフ3人に指令がおりた。
「釣り経験のない社員。誰もが楽しめるワカサギ釣りを堪能する」をテーマにした釣り特集紙面ということだった。業務系の広告事業局男性社員3人に白羽の矢が立った。
ハンドルを握るのはスギウラ(48)=日刊スポーツの別グループ会社で内勤だったが、つい最近広告営業に配置転換された。助手席はタグチ(48)=紙面のレイアウトや見出しを決める編集整理に長年身を置いていた。後部座席はイイジマ(49)=野球部で記者からデスク(記事をまとめる記者の親分)になり、この時期はキャンプからオープン戦というシーズン1年を予測する大事な時期になる。
もうそろそろ人生半世紀になろうとする3人。それぞれ歩んできた道はバラバラだが、今は同じ広告営業で頭をひねり、さまざまな戦略を考えて、広告での紙面活用を企画する部署に所属する。精進湖とは縁もゆかりもない毎日を送っていた。
精進湖「湖畔荘」。関東地区のヘラブナ発祥宿として知られる。近年ではブラックバスを狙うルアーマンの数も多くなってきた。この時期はワカサギだ。「今冬のワカサギは大きいね。でもドーム船が人気みたいで、ボートでの釣りにはあんまりこない。それとちょうど産卵期に入ったみたいでちょっとシブいんだよね」とおかあちゃん。目玉焼きやサラダ、天然ナメコのみそ汁と白米の朝ご飯を運びながら最近の様子を説明してくれた。
タグチは「久しぶりにしっかり朝飯食ったわ」と満足げ。イイジマが「さあ、行くか」と声を掛けて3人はボートに乗り込んだ。夜明け前に雨雲が通り過ぎた。午前中、雨予報だったことでお客はゼロ。本来は手こぎボートだが、おとうちゃんがエンジン船を出してくれて、ポイント3カ所を案内してくれた。
「うわぁ、こんなデカいのは初めてだ」とスギウラ。霧と雲が一気になくなり、大きな富士山がそびえ立っていた。「銭湯みてえだな。すげえ」とタグチはつぶやいて、エサの赤サシを7本バリに刺していった。イイジマは話題の老眼鏡をかけて「ちっせえな。1・5号、こんなハリに食うのか」とひとりごと。しばらくサオを出していたが、釣れない。おとうちゃんが「ワカサギがデカいからハリは2号以上がいいよ」と忠告してくれた。釣り担当記者からもらった仕掛けには2号と2・5号の7本ハリも用意されていた。
仕掛けを替えるとアタリが出てプルルン。3人ともワカサギが釣れた。気付いたら3時間が経過していた。2月というのに暖かい。「外気が気持ちいい。この雄大な自然の中で釣り糸を垂れるのも迫力があるな」とイイジマ。それに呼応してタグチも「仕事ばかりじゃなくて、こういう時間も大切だね。最初はどうなるかと思ったけど、来てよかった」と話す横でスギウラがニッコリ笑っていた。
宿に戻ると「普段はやらないけど、今日はお客もいないから特別ね」と釣ったワカサギをフライにしてくれた。「うわ、こんなに香ばしくて、あれ、なんだ、これ?」とタグチがフライをかんだ断面をみて「たまごが入っている」。抱卵のワカサギ、そりゃ絶品だ。
帰りの車中も沈黙だったが、それぞれが満足した思いを抱いていた。「都心から車で2時間かからない。精進湖いいな」とイイジマがポツリ。新宿のビル群には夕日が差していた。「富士山、きれいでしたね」とハンドルを握るスギウラに2人は何度もうなずいた。【寺沢卓】
▼宿 精進湖「湖畔荘」【電話】0555・87・2003。出舟は午前6時から(ワカサギの帰着は午後4時まで)。ローボートは1日3000円。食堂で朝食だけではなく、おいしい定食もある。

