東京湾の小柴~富岡沖で1日、マダコが解禁となった。東京湾の本牧以北では6月1日に解禁しており、その直後は3~4キロも型をみせ、今年も好調かと思われた。だが日がたつにつれ、「今年は乗りが悪い」という声が聞こえていた。その実態を確認すべく、神奈川・川崎「つり幸」(幸田一夫船主=73)で、マダコ釣りを楽しむ釣り人を取材した。

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東京湾のマダコはここ数年乗りが良く、トップ20匹釣果もザラだった。過去記事を振り返ると、14年には「10年ぶりのワキの濃さ」、19年には「1991年以来28年ぶりのフィーバー。5年前の比ではない」の文字が紙面を飾っていた。今年の東京湾では、一体何が起こっているのだろうか? 船宿に到着すると、マダコ船を担当する新海雅也船長(40)の「厳しいですよ」という一言が待っていた。毎日現場に出て、肌で感じている船長の言葉だけに重みがある。

この日、14人が挑戦。釣り方はテンヤも可だが、全員が餌木での挑戦となった。開始から約10分で、佐藤佑さん(43)が船中第1号となる400グラムを乗せた。「底をたたいていたら引いた感じがありました。根掛かりも気になったので、一気に合わせたら乗りました」。マダコ釣りは昨年デビューで、今年はこの日が初挑戦。「去年も乗ったけど小さかったので、今日のが自己ベストです」とVサイン。餌木には何やら茶色い物体が巻き付いていた。「ドッグフードのドギーマンです。においが有効と聞いて試してみました」。におい誘惑作戦が功を奏した。

だが、後が続かない。小黒成樹さん(55)が800グラムを上げたのは約1時間後。「トントンしていたら、もさ~とした感覚があったので合わせました」。小黒さんの餌木には豚ばら肉が巻いてあった。

その約1時間後、関根さんに400グラムがヒット。3年前のコロナ禍を機に釣りを始めたが、「2週間くらい前に来たときに1・8キロを釣ったけど、去年ほどの数ではないような気がします」。関根さんの餌木にトリ皮が巻かれていた。

まさにポツポツ状態の中で、1・5キロを頭に5匹を掛け、サオ頭も獲得したのが釣具店キャスティング東久留米店勤務の山口真澄さん。「マダコは3年前に始めましたが、ずっと1キロの壁が越えられなかった。それが今年の解禁日に仕立てで出て、3・3キロを釣りました。でも2匹しか釣れなかったので、今日は練習で来ました」。山口さんの餌木はシンプルに白と赤で巻物はなし。「いろいろ試した結果、シンプルな餌木にたどり着きました」。1・5キロは「いきなりズンと来た感じだったので、根掛かりではないと思いました」。もう1人のサオ頭は小黒成樹さんだった。

この日は文字通り「ポツポツ」で、釣果は0・4~1・5キロ0~5匹でゼロ3人。新海船長は「今季で1番ダメな日」とし、「昨年までが釣れすぎでした。本来のマダコ釣りは0~3匹とか、もっと厳しかったと思います。それでもいい日はつ抜けもあるので、本来よりはいいと思います。あまり欲張らず、まずは1匹を狙って欲しいですね」と話した。

日刊スポーツ共栄会でマダコを狙える各船宿に確認してみても、「今年が悪いわけではなく、去年までが釣れ過ぎていただけ」と異口同音だった。つまり「今年は乗りが悪い」の正体は、「昨年までと比べて」が省略されたものだ。釣り人に限らず人間は、良いときを基準に判断してしまう生きものかもしれない。「今年の東京湾のマダコが乗りが悪い」のではなく、「本来のマダコ釣りに戻っただけ」ということだろう。【川田和博】

<釣り人ひと言>

▼600グラムヒットの田中聡さん(48)「今年初めてのマダコ。今年は型が小さいと聞いていましたが、取りあえず1匹取れて良かったです」。

▼小黒六夫さん(83)は豚ばら肉を巻いた餌木で1・4キロゲット。「今日はボウズかと思っていたので満足です。根掛かりが心配だったので、少し浮かせ気味にコツコツしていたら、スーッと重くなった」。

▼小野哲則さん(60)「もさっとしたので合わせたら掛かった。餌木はダイソーで買ったほうに乗りました」。

▼佐々木良輝さん(25)「解禁直後はよかったけど、だんだん乗らなくなってきているような気がします」。

▼前田亮人さん(21)「マダコは去年初めてやって、今年は今日が初。ちょうど眠気が襲ってきていたところで乗って目が覚めました(笑い)。取れて良かったです」。

<船長コメント>

神奈川・八景「太田屋」の太田一也船長(55)は「これまでがある意味異常で釣れすぎていただけ。本来のマダコ釣りに戻っただけで、これが普通だと思います」とした。同鶴見「新明丸」の新明慶樹船長(43)も「ここ3~4年はトップで20匹は乗っていた。確かにそれと比べると『悪い』となるけど、それでもトップで8~10匹の日もあるので、悪くはないと思います」という。

餌木やスッテが使用禁止の千葉・富津地区の「みや川丸」宮川淳船長(63)は「富津は湾奥とは競合しないですが、南沖は昨年よりも少しいいですよ。マダコは元々数釣りではないですから」と話した。

では、なぜ昨年まで釣れたのだろうか? つり幸関係者は「天敵が少なく、マダコの卵が食べられなかったのでは」と推測。新明船長も「餌や天敵の問題かもしれません。通説で“アナゴがいいときはタコが釣れない”とか“イカがいいときはタコが釣れない”がありますが、今年は当てはまっているように思います」と話した。

◆川崎「つり幸」【電話】044・266・3189。集合6時、氷付き1万円。この時季は、午前&午後LTアジ、タチウオ、午前シロギス等も受け付け中。※詳細は電話でご確認を。