「夜の帝王」は人間様だけではなく、魚の世界にもいる。

アナゴがいい例だ。夜行性で、つりがねオモリの下に蛍光パイプが付いたハリスと針を装着する。エサのアオイソメを掛け、砂泥地の海底でオモリを引きずったり、小突いたりしながら砂煙を立てる。オモリの上には蛍光塗料の入った「ケミホタル」とか、赤や緑に点滅する小型水中ライトをつけて誘う。これが集魚効果となり、ネオンにつられて繁華街へと足を向ける「5時から男」みたいに寄ってくる。

東京湾では通常ゴールデンウイークから始まり、6月から7月まで夜釣りで狙う。これからの時期の風物詩で、千葉寒川「小峯丸」や川崎「つり幸」で出ている。釣り人の中には、剣道の竹刀に使うようなしなりのいい竹で作った手バネのサオを持参し、手巻きの道糸を針がかりしたらうまく手繰り寄せる人もいた。

釣れたアナゴは、高さ50センチほどの深めのバケツに入れる。海水は1センチほど入れるだけでいい。それ以上入れると、跳躍力のあるアナゴは「高飛び」よろしく、バケツの側面に沿って逃げ出してしまうからだ。バケツの上から平らな仕掛け箱を置き、上部脱出を阻むのも手だろう。

ところで、「アナゴなんてさばけないよ。どうやって持って帰るの」と思う人もいるはず。ご心配なく。船の中でスタッフが目打ちとまな板、包丁を用意して1匹1匹さばいてくれる。その包丁さばきは見事なものだ。3枚におろしてポリ袋に詰めてくれる。

天ぷらはもちろん、10~15センチほどの幅に切った身を白焼きにするといい。よく行く居酒屋では、白焼きにアナゴの身と同じくらいの長さに切ったキュウリの短冊と、焼きのりを付けてくれる。のりの上に焼いたアナゴ、その上にキュウリを乗せてのり巻きにし、わさびとしょうゆをつけて食べると、あら不思議、磯辺巻きのような、かっぱ巻きのような味になる。

「夜の帝王」、食卓に上がれば立派なお酒のお供に変身する。