医師で作家の鎌田實さん(67)が、日常生活のちょっとした工夫で健康になり、10歳若返るヒントを教えてくれます。

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 意志の力は、人生にも影響を及ぼす。コロンビア大学の心理学のウォルター・ミッシェル教授が1960年代にマシュマロテストを行った。子どもたちにマシュマロを見せて、「すぐ食べれば1個だけ、我慢できれば後で2個食べられる」と提示し、我慢できた子とすぐに食べてしまった子の50年以上の経過を追った。

 我慢できた子は、自制心が強く、集中力が高く、聡明(そうめい)で自信に満ち、自分の判断で人生を切り開いていく傾向があった。失敗しても、人間関係でうまく調和し、乗り越えることができる。健康面でも、我慢できた子どものほうが、大人になってから肥満指数が大幅に低かった。

 食べたいものに本能的に手が出てしまうというのは、生きるために必要なことだ。脳には、ほしいものをすぐ手に入れようとするホットシステムがある。だが、これが暴走すると、依存症になったり、健康を壊したり、人生を壊してしまうことがある。

 一方、脳の前頭前野にはほしいものがあっても、それを得ることが損か得かを判断するクールシステムというのもある。

 このクールシステムを鍛えるにはどうしたらいいか。ミッシェル教授は、自制能力が低かった移民の青年が、意志の力を鍛えるプログラムに参加し、イェール大学に入学した例を挙げている。やればできるという小さな成功体験の積み重ねをすることで、ホットシステムが暴走しそうになったとき、クールシステムがブレーキを引いてくれるのである。

 人間には、ホットシステムとクールシステムのどちらも大事だ。熱い思いで、ほしいものに邁進(まいしん)するときと、それを我慢して待つとき。その緩急が人生を立体的にしてくれるのである。

 ◆鎌田實(かまた・みのる)1948年(昭23)6月28日、東京生まれ。東京医科歯科大医学部卒業後、長野県茅野市にある諏訪中央病院の医師になる(現在は名誉院長)。チェルノブイリ原発事故の患者支援、イラク難民支援を続け、東日本大震災後の被災地支援にも力を入れている。著書「がんばらない」など多数。