肺がん治療30年のスペシャリスト、国立がん研究センター中央病院の大江裕一郎先生(57)が、最新の肺がん治療を教えてくれます。

【免疫療法には副作用がない?】

 昔から、免疫療法には副作用がないと言われてきました。確かにこれまでの免疫療法では目立った副作用がでることは非常にまれでした。そのために、免疫療法に副作用がないと思われている患者さんがいるのだと思います。しかし、これは明らかな間違いであり、これまでの効果が明確でない免疫療法では、極論をすれば効果も副作用もなかったということです。

 しかし、オプジーボ、キイトルーダなどの明確な効果を表す免疫チェックポイント阻害薬には免疫系を介したさまざまな全身の副作用があります。免疫チェックポイント阻害薬は免疫のブレーキを外す治療ですので、逆に免疫が暴走して、正常細胞を攻撃してしまうことがあります。多くの患者さんの場合、オプジーボやキイトルーダを投与しても問題になるような副作用がでないことも事実ですが、10~20%程度の患者さんにはさまざまな副作用が出現し、時には死に至る重篤な副作用も出現します。

 比較的頻度の高い副作用に、甲状腺機能障害、特に甲状腺機能低下症や間質性肺炎、腸炎などがあります。甲状腺機能低下症の場合には、甲状腺ホルモンの補充が必要です。間質性肺炎では時に死に至ることがあり注意が必要です。急激に発症する糖尿病になることもあり、適切な治療を行わないと数日で死亡する可能性があります。その他にも、重症筋無力症、筋炎、心筋炎、肝障害、下垂体炎などの副作用があり適切に対処しないと生命に危険が及びます。

 このような副作用に対応するために、オプジーボ、キイトルーダは副作用に対応できる病院、専門医のもとで使用することが求められています。

 ◆大江裕一郎(おおえ・ゆういちろう)1959年(昭34)12月28日生まれ、東京都出身。57歳。東京慈恵会医科大学卒。89年から国立がんセンター病院に勤務。2014年、国立がん研究センター中央病院副院長・呼吸器内科長に就任。柔道6段。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本体育協会公認スポーツドクターでもある。