肺がん治療30年のスペシャリスト、国立がん研究センター中央病院の大江裕一郎先生(57)が、最新の肺がん治療を教えてくれます。

【免疫チェックポイント阻害薬は他の治療と併用しても大丈夫?】

 治療効果を高めるために免疫チェックポイント阻害薬と、抗がん剤、分子標的薬、放射線治療との併用、他の免疫療法との併用や免疫チェックポイント阻害薬同士の併用などさまざまな研究が現在実施中です。しかし、これらはすべて研究中の治療であり、併用することの有効性、安全性はまったく分かっていません。

 抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬オプジーボ、キイトルーダの併用、抗CTLA-4抗体であるヤーボイとオプジーボの併用などは、現在大規模な臨床試験が実施中ですが、その結果はまだ分かっていません。効果が高まると期待して臨床試験を実施しても、副作用が予想以上に増強したり、効果が思ったほど高くないということは時々経験するので、試験の結果が出るまでは安易に行うべき治療ではありません。

 抗PD-L1抗体と分子標的薬を併用すると間質性肺炎や肝障害などの副作用が増強するとの報告もあるので、分子標的薬との併用も注意が必要です。オプジーボ、キイトルーダとも半減期が長く、投与を中止しても数週間は体内に残ります。オプジーボ、キイトルーダを中止した後に、タグリッソなどの分子標的薬を使うときにも注意が必要です。

 オプジーボを併用しながらリンパ球などを投与する細胞免疫療法を行って、重篤な副作用が出現した患者さんも少なくありません。中には重篤な副作用で死亡した患者さんも報告されています。このように安全性、有効性の確立していない治療を行うことは非常に危険です。また、オプジーボやキイトルーダを受けているときに、担当医に無断で他の病院で免疫治療などを受けることも絶対にやめてください。

 ◆分子標的薬 がんに関連する特定の分子(主にタンパク質)を標的に攻撃する。がん細胞にターゲットを絞って狙うことが可能になる。

 ◆大江裕一郎(おおえ・ゆういちろう)1959年(昭34)12月28日生まれ、東京都出身。57歳。東京慈恵会医科大学卒。89年から国立がんセンター病院に勤務。2014年、国立がん研究センター中央病院副院長・呼吸器内科長に就任。柔道6段。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本体育協会公認スポーツドクターでもある。