肺がん治療30年のスペシャリスト、国立がん研究センター中央病院の大江裕一郎先生(57)が、最新の肺がん治療を教えてくれます。

【非小細胞肺がんの進行度と治療】

 現在、年間に約11万人が肺がんに罹患(りかん)し、約7万5000人の患者さんが肺がんで死亡しています。肺がんで亡くなる患者さんのうち約6万人が非小細胞肺がんと推測されます。

 非小細胞肺がんの病期ごとの治療法を表に示しました。1期と2期では手術が主体となり、非常に早期の1A期の一部を除き、術後に化学療法が併用されます。手術は肺葉切除と肺門・縦隔リンパ節郭清が基本ですが、早期の肺がんには楔状(けつじょう)切除や区域切除などの縮小手術も行われています。1期で高齢、合併症などの理由で手術ができない場合は、定位放射線治療などの放射線治療が行われます。

 3期では、放射線治療と化学療法の併用が治療の主体となり、場合によっては手術が組み込まれることもあります。若くて元気な患者さんには、放射線治療と化学療法を同時に行います。

 4期や手術後の再発に対しては化学療法、分子標的治療、免疫療法といった薬物治療が主体となります。EGFRやALKの遺伝子変異がある患者さんでは、それぞれEGFR阻害薬、ALK阻害薬が使用されます。

 PD-L1という分子が高発現している患者さんでは、免疫チェックポイント阻害薬であるキイトルーダが化学療法の前に1次治療として使用されます。キイトルーダが1次治療で使える患者さんは、非小細胞肺がんの約30%です。オプジーボは、化学療法や分子標的治療が効かなくなった患者さんに対する2次治療以降として投与されます。また、これらの治療と並行して痛みのコントロールや精神的ケアなどの緩和ケアも同時に行われます。

 ◆大江裕一郎(おおえ・ゆういちろう)1959年(昭34)12月28日生まれ、東京都出身。57歳。東京慈恵会医科大学卒。89年から国立がんセンター病院に勤務。2014年、国立がん研究センター中央病院副院長・呼吸器内科長に就任。柔道6段。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本体育協会公認スポーツドクターでもある。