肺がん治療30年のスペシャリスト、国立がん研究センター中央病院の大江裕一郎先生(57)が、最新の肺がん治療を教えてくれます。

【肺がんに対する手術】

 肺がんに限らず多くのがんの最も効果的な治療は、早期に発見して手術ですべての病変を取り除くことです。

 非小細胞肺がんの1-2期と3A期の一部および小細胞肺がんの1期が、手術の対象です。手術は肺がんを治癒させる可能性が最も期待される治療法ですが、手術適応ではなく、進行した肺がんに無理な手術をすることはお勧めできません。

 肺がんに対する手術の基本は、肺葉切除と肺門・縦隔リンパ節郭清ですが、肺門部に病変があるなどの理由で左右どちらかの肺を摘出する肺全摘が行われることもあります。また、腫瘍が浸潤している場合には胸壁などの合併切除が追加されることもあります。

 近年のCT(コンピューター断層撮影)健診の普及により非常に早期の肺がんが見つかることも少なくありません。このような極早期の肺がんに対しては楔状(けつじょう)切除や区域切除などの縮小手術が行われることもあります。

 以前の肺がんの手術は20センチ程度の大きな切開による開胸が行われていましたが、現在では数センチ程度の小切開による開胸や胸腔(きょうくう)鏡を使用した低侵襲手術が主流となっています。一般的には肺がんの手術後、合併症がなければ1週間程度で退院できます。また、日本では肺がん手術の合併症で死亡する危険性は非常に低く1%以下とされています。

 合併症を減らした安全な手術をするためには禁煙することが不可欠です。たばこをやめないで手術をすると、たんが多くなり術後に肺炎などの合併症を併発する可能性が非常に大きくなります。肺がんになってからでも遅くはありません。ぜひ、たばこをやめてください。

 ◆大江裕一郎(おおえ・ゆういちろう)1959年(昭34)12月28日生まれ、東京都出身。57歳。東京慈恵会医科大学卒。89年から国立がんセンター病院に勤務。2014年、国立がん研究センター中央病院副院長・呼吸器内科長に就任。柔道6段。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本体育協会公認スポーツドクターでもある。