肺がん治療30年のスペシャリスト、国立がん研究センター中央病院の大江裕一郎先生(57)が、最新の肺がん治療を教えてくれます。

【手術ができない肺がんは治らない?】

 肺がんの最も根治的な治療は、早期に発見して手術で肺がんを取り除くことです。非小細胞肺がんの1-2期と3A期の一部および小細胞肺がんの1期が、手術の対象となる肺がんですが、それ以外の手術ができない肺がんは治らないのでしょうか? 手術をしないと肺がんは治らないと思われがちですが、それは誤りで、手術をしなくても肺がんを治すことができる場合があります。

 1期の非小細胞肺がんで高齢や合併症などの理由で手術ができない場合には、定位放射線治療などの放射線治療で、肺がんを治すことができます。陽子線治療や重粒子線治療といった特殊な放射線治療が行われることもあります。

 3期の非小細胞肺がんで手術ができない場合には、化学療法と放射線治療が併用され、両方を同時に併用すると5年生存率は、20~30%です。限局型の小細胞肺がんに化学療法と同時放射線治療を行った場合も5年生存率は20~30%です。5年以降に再発することは少なく、3期の非小細胞肺がん、限局型小細胞肺がんともに、化学療法と放射線治療で治癒させる可能性がある肺がんです。

 オプジーボ、キイトルーダなどの免疫チェックポイント阻害薬が奏効した場合にも、その効果が長期間持続することが報告されています。しかし、免疫チェックポイント阻害薬が肺がんの患者さんに使用されるようになってから数年しか経過していません。免疫チェックポイント阻害薬で治療された肺がん患者さんが治癒するかどうかは、今後の経過をみて判断する必要があります。

 ◆大江裕一郎(おおえ・ゆういちろう)1959年(昭34)12月28日生まれ、東京都出身。57歳。東京慈恵会医科大学卒。89年から国立がんセンター病院に勤務。2014年、国立がん研究センター中央病院副院長・呼吸器内科長に就任。柔道6段。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本体育協会公認スポーツドクターでもある。