肺がん治療30年のスペシャリスト、国立がん研究センター中央病院の大江裕一郎先生(57)が、最新の肺がん治療を教えてくれます。

【非小細胞肺がんに抗がん剤は効かないの?】

 昔は、小細胞肺がんには抗がん剤が効くけれど、それ以外の肺がんには抗がん剤は効かないと言われていました。

 しかし、1980年代に登場したシスプラチンやカルボプラチンなどの白金製剤、90年代に登場したイリノテカン、パクリタキセル、ドセタキセル、ゲムシタビン、ビノレルビンなどのいわゆる第3世代抗がん剤、そしてその後に登場したアリムタなどにより、非小細胞肺がんに対する化学療法の成績は大きく進歩しています。

 非小細胞肺がんに化学療法を行う場合には、1-2期および3期の一部の患者さんに対して手術後に実施する場合、3期の患者さんに対して根治的放射線治療と併用する場合、4期や術後再発の患者さんに単独で投与する場合があります。

 手術後に抗がん剤を追加することにより、再発率が10%程度減少します。3期の患者さんの放射線治療に化学療法を同時併用すると、5年生存率が放射線治療単独の5%程度から20~30%へ向上します。いずれの場合も抗がん剤を手術や放射線治療と併用することで、治癒率が上昇します。4期や術後再発の患者さんに抗がん剤を投与しても治癒は難しいですが、寿命を延ばしQOL(生活の質)を改善することは可能です。

 分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬とともに抗がん剤治療も非小細胞肺がんに対する重要な薬物治療です。分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬のみではなく必要に応じて抗がん剤治療を実施することによって、患者さんにより長く、より良好な延命効果もたらします。

 ◆大江裕一郎(おおえ・ゆういちろう)1959年(昭34)12月28日生まれ、東京都出身。57歳。東京慈恵会医科大学卒。89年から国立がんセンター病院に勤務。2014年、国立がん研究センター中央病院副院長・呼吸器内科長に就任。柔道6段。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本体育協会公認スポーツドクターでもある。