感染から3週間の潜伏期を経て、局所に現れた「初期硬結(こうけつ)」は、その後、次第に状態は悪くなる。

 東京・西新宿の性感染症専門治療「プライベートケアクリニック東京」名誉院長の尾上泰彦医師はこういう。

 「初期硬結が崩れて深く潰瘍化していくのが典型的なパターンです」

 冠状溝(亀頭と包皮の根元付近)、亀頭などにできた皮膚の硬いふくらみはやがてその中央部から、えぐれたり、びらん(粘膜のただれ)となり、見た目にも皮膚の荒れた様子がわかるようになる。

 「初期硬結が潰瘍化したのが硬性下疳(げかん)です。痛そうですが、痛くはない。熱も出ません」(尾上医師)。

 よく見ると潰瘍の周辺が盛り上がり、硬さもある。ある50代の男性会社員は、この硬性下疳の段階で受診した。5週間前、ソープランドを利用し、その際に感染したと思われる。

 病原体の梅毒トレポネーマは局所から侵入後、リンパの流れに乗ってリンパ節に至ったあと、増殖して腫らす。

 「硬性下疳となった後、やや遅れて鼠径(そけい)部のリンパ節が腫れてきます。無痛性で硬いことが特徴です。大きさは指の頭ほど」(尾上医師)。

 炎症はなく「無痛オウゲン」と呼ばれる。ある20代風俗嬢は、検査結果が陽性になり受診。訴えはなかったが調べると、硬性下疳が見つかった。女性器では大小陰唇にできやすい。尾上医師はこう指摘する。

 「外陰部を目でしっかり診察することがないと見逃されてしまう。(奥にある)子宮頸部(けいぶ)にもできるので要注意です」。経験豊富な専門医だからこそ隠れている病変に気づくという。