有名人が逮捕される度に、世間の関心を集める「薬物依存症」。東京都小平市にある「国立精神・神経医療研究センター」の精神保健研究所薬物依存研究部長で、薬物依存症治療を専門とする「薬物依存症治療センター」の松本俊彦センター長に、刑罰では解決しない薬物乱用の真実の姿を聞いた。

 松本氏は、2004年に国立精神・神経医療センター・精神保健研究所の司法精神医学研究部専門医療・社会復帰研究室長に就任後、同自殺予防総合対策センター自殺実態分析室長、副センター長を経て現職。自殺や依存症に関する著書も多く、日本の薬物依存治療の最前線からさまざまな課題を社会に発信している。まずは医療機関での実態調査から紹介しよう。

 「薬物乱用、依存における医療機関での実態については、昨年に全国精神科医療施設およそ1600施設でアンケートをしています。それによると、主たる薬物の半数を覚醒剤が占め、次いで睡眠薬、抗不安薬などの処方薬でした。1年以内に使用したもので一番多いのもやはり覚醒剤でした」(松本氏)

 調査から「危険ドラッグ」は14年以降激減したが、危険ドラッグ関連障害患者では意識障害やけいれんなどの神経症状が年々増え、横紋筋溶解症、肝障害など重症化の傾向が高まっていることが分かった。「関連死」も激増し、依存症も増加。法規制の強化に伴い、より“危険”になっているという。

 松本氏を中心に、10年ほど前から依存症集団療法「SMARPP(スマープ=再乱用防止のための集団プログラム)」を開発。全国34カ所の医療機関と、35カ所の精神保健福祉センターで展開。その効果が認められ、昨年から報酬加算されるなど注目されている。

 松本氏は強調する。「薬物依存症は高血圧や糖尿病のように、長く治療を続けなければいけない病気。薬物対策には、供給の断絶と同時に“欲しがる人(需要)”を減らすことが非常に重要なのです」。