「私の場合、やり出したら止まりません。やるべきことをやらず理性を失います。約束は守らなくなり世間から信用をなくしてしまいます。自分でもやけくそになり、出所すると別人になってしまいます。みんな簡単にやめているのに、なぜ自分だけがやめられないのでしょうか」

 これは覚醒剤の常習で捕まった、ある中年男性の言葉だ。本人は子ども時代にイジメられ、父親から暴力も振るわれていた。「どうせ俺なんて…」と投げやりになっていた。

 国立精神・神経医療研究センター「薬物依存症治療センター」の松本俊彦センター長はこう話す。

 「目の前に白い粉末が差し出されたら、急に胸がドキドキしたり、汗が噴き出すようなことがありませんか。もしそうなら、私たちのような専門家に相談してください。治療が必要だからです。私たちは、薬物依存対策では欲しがる人を減らす、きちんと治療していくことが必要だと考えています」

 例えば、有名人逮捕のニュースや取り締まり現場のリポートをする番組の陰では、気持ちを揺さぶられている人たちがいる。

 「白い粉、注射器といった薬物使用をイメージさせる映像や写真を見ることが、覚醒剤を渇望する引き金となる。結果、報道の度に再使用者が続出する。つまり、依存症の人たちの脳のスイッチが入ってしまうわけです。実はやめようと頑張っている人たちもいるんだということを知ってほしいと思います」(松本氏)

 「謝罪や反省」以上に、大事なことがあるのではないか。薬物依存への誤解が、必要以上のバッシングにつながってはいないか。松本氏が続ける。「バッシングされた本人や家族は、まさに四面楚歌(そか)の状態に追い込まれますから、ますます薬物を使用したくなるのです」。

 テレビで「刑罰よりも治療を」と訴えたところ、多数の批判が寄せられたという。立ち直りを支援する医療者に対する社会の無理解も、また課題である。