30年以上前、精神科医E・カンツィアンが指摘した「依存症は快感を得るためではなく、その中心に痛みがある」。それを証明する海外の研究は多い。とりわけ子ども時代に虐待を受けた人は、受けていない人よりも薬物に手を出しやすいという。国立精神・神経医療研究センター「薬物依存症治療センター」の松本俊彦センター長はこう話す。

 「例えば虐待にさらされると、2次的に多動になることがあります。原因はともあれ、多動では周囲から叱られたり、友達もできない。イジメられたりすることで、自尊心が傷つけられます。学校で褒められたことがない、達成感がないなどが危険因子として知られています」

 一般よりも早い時期にたばこや酒を覚えると、いわゆる“気分を変える物質”に対するハードルが下がってくることも一因。

 「誰からも必要とされていないと思っている10代の子どもたちが、クスリをやれば仲間になれると考えて、安易に手を出してしまう。実はよく調べると、薬物を始める半年前には、うつ病や不安障害に相当する精神状態であったり、リストカットを繰り返していたという事実があるのです。メンタルヘルスの問題として気づけていたらと、残念に思います」(松本氏)。

 いったん司法の下に置かれて「罰」の対象になると、反省、矯正が主な目的となってしまい、治療や福祉の手が届きにくくなる。刑罰より治療を優先させよと主張する理由は、そこにある。松本氏が続ける。

 「高校生の1割ほどは、それまで1度はリストカットの経験があると、アンケートで答えている。診断基準を満たさないまでも、摂食障害などの疑いも多いのです」

 こうした経験をした子には、なぜかセックスの経験者も多い。背景には、心理不安があるという見方がある。家にも学校にも居場所がない彼らは、“セックスが要求される環境”へ身を投じることで、自分の居場所を見つけている。そんな可能性を否定できないのが実情だ。