「薬物報道ガイドライン」を提案する「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」には、国立精神・神経医療研究センター「薬物依存症治療センター」の松本俊彦センター長もメンバーの1人として参加している。過剰な薬物報道の結果、虐待などの痛みを抱えた子どもは、危険なものに引かれることで、薬物への関心をかえって高めてしまうといった弊害があると指摘する。ガイドラインが参考にするのは、世界保健機関(WHO)による「自殺予防-メディア関係者のための手引き」だ。

 この手引は、WHOが2000年に、有名人が自殺した際、その連鎖自殺を防ぐために勧告したものだ。報道機関は、写真や遺書の公表をしない、自殺手段の詳しい内容を伝えない、美談にしないといったことのほか、支援機関を紹介するなど、11項目がある。松本氏は過剰な報道に課題があるとしながらも、薬物乱用を防ぎ、依存症をなくすためには、メディアの力が必要だと話す。

 「国民に広く知らせるためには、やはりジャーナリズムの力が必要です。薬物依存症について正しく啓発し、依存症から回復しやすい社会になってほしいと思います。そして、さまざまな生きづらさを抱えて、どこにも居場所がないと思っている子どもたちが、クスリやモノに依存するのではなく、安心して人に悩みを打ち明けたり、相談することで、心の痛みを抑えるような社会、人に助けを求めることができる世の中になるといい」

 昨年、元俳優が違法薬物使用で逮捕された際、本人が麻薬取締官に対して「ありがとう」と言ったことが報じられた。それに対してタレントやコメンテーターが「腹が立つ」などと言及し、「反省がない」などと糾弾。社会的に影響の大きい立場にいる側が、病気という視点を欠いた発言をしたことがあった。

 WHOは、薬物問題を犯罪としてではなく、健康問題として扱うべきとしているが、そうしたことすら日本ではあまり知られていないと、松本氏は話す。