覚せい剤取締法違反の検挙数は、昭和29年の5万5664人をピークに、罰則の強化や検挙等によって急減。昭和32~44年まで毎年1000人を下回った。その後は増加傾向となり、昭和59年に2万4000人を超えた。最近5年間は1万1000人前後と横ばいで、今年の犯罪白書によれば、昨年は1万607人だった。また、出所受刑者全体の約4割が5年以内に再入所(再犯)しており、そのうち約半数は2年以内で、再入所の割合は覚醒剤によるものが、窃盗の23・2%に次いで高い19・2%だった。

 また、覚醒剤の再犯者は近年上昇傾向にあり、2015年は65・4%。10年前より1割増えた。こうした状況は、薬物依存症によることが明らかだ。刑務所では依存症に対する治療プログラムが実施されているほか、保護観察所でも同様だ。プログラムに携わったことがある関係者の男性は、こう話す。

 「覚せい剤取締法違反の累犯者に、『あなたはそれまで家族や友人、恋人などから、いいかげんにしろと叱責(しっせき)されたことがありますか』と聞くと、ほぼ全員がイエスと言います。しかしそれでも止められず、刑務所に再び入っている。そして、周囲から『がっかりした』と言われるほど、また使いたくなるんだと打ち明ける。クスリの再使用で最も失望しているのは、ほかならぬ薬物依存症者自身なのです」

 ひとたび依存症になった場合、「また使ってしまった」という自己嫌悪と屈辱を覚え「とてもシラフでいられない」と感じ、クスリを渇望するスイッチが入るのだという。

 もちろん、こうした状況となったのは、自業自得、自己責任じゃないかと考える人もいることだろう。罪としての償いは必要に違いないが、周囲から見放されることが、当事者にとっては一番つらいことでもある。男性はこう話す。

 「違法薬物である覚醒剤の依存症については、病気ではなく犯罪とみなす人が多いのが現状です。しかし、処罰だけでは限界があります。罰で薬物依存は治らないことを理解してほしいと思います」