イライラした時に、「カルシウム不足なんじゃない?」と言われたことはないでしょうか。でも、医学的には、カルシウムとイライラには何ら関係はありません。日本人のカルシウム摂取量が少ないことと、ストレス社会でイライラしている人が多いことを結びつけて考えたのでしょう。

 確かに強いストレスを受けると、血液中のカルシウムが消費されることがありますが、それでカルシウム濃度が多少減っても、すぐに骨からカルシウムが放出されます。健康であれば、血液中のカルシウム濃度は、いつも一定に保たれているわけです。ですから、イライラした時にカルシウムをとっても、あまり変化はありません。では、イライラにはどんなものが効果的なのでしょう。お勧めしたいイライラ対策法は、次の通りです。

 (1)セロリ、パセリ、タマネギ、コーヒーの香りをかぐ。セロリの「アピイン」、パセリの「アピオール」、タマネギの「硫化アリル」という成分の強い香りは、精神を安定させ、気持ちを静める働きがあります。また、コーヒーの香りが気分を落ち着かせ、安らぎの脳波であるアルファ波を高めてくれます。特に、グアテマラやブルーマウンテンが効果的(杏林大学の実験による)。

 (2)ガムやするめをかむ。それらをくちゃくちゃかむと、心に安らぎや落ち着きをもたらすセロトニンという幸せホルモンが分泌されます。かみ始めてから約5分でセロトニンが増え始め、30分後には急増しますから、野球やサッカーの選手がガムをかんでいるのは、ちゃんとした意味があるのです。

 (3)犬の頭をなでる。「アニマルセラピー」という治療法で、動物と触れ合うことで、心身の健康が取り戻せるというのです。「飼い犬の頭をなでると血圧が下がる」(米ネブラスカ大・84年)や、「心臓病患者でペットと暮らしている人は、暮らしていない人より血圧やコレステロール値が低い」(オーストラリア・ベーカー研究所・92年)という報告があります。

 他に、クラシック音楽を聴くのも有効です。イライラすると副腎から出るコルチゾールというストレスホルモンは、クラシックを聴くと分泌されるドーパミンやβエンドルフィンによって、減らすことができるのです。私のお勧めはモーツァルト「バイオリン・ソナタ ホ短調第21番第1楽章」です。

 ◆森田豊(もりた・ゆたか)1963年(昭38)6月18日、東京都生まれ。秋田大医学部、東大大学院医学系研究科修了。米ハーバード大専任講師を歴任。現役医師として活躍すると同時に、テレビではコメンテーターのほか、「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)など人気番組の医療監修も数多く務める。著書は「今すぐ『それ』をやめなさい!」(すばる舎)「ダイエットはオーダーメイドしなさい!」(幻冬舎)「ねぎを首に巻くと風邪が治るか?」(角川SSC新書)など。気分転換は週2回のヨガ。