「うつが治る食べ方、考え方、すごし方」(CCCメディアハウス)の著者で心に効く運動として「キックボクシング」を治療に取り入れている、「新宿OP廣瀬クリニック」(東京都新宿区)の廣瀬久益理事長はこう話す。

「心に効く運動は、身体に効く運動とは別。なぜ運動がいいのか、それは全身運動だからです」

廣瀬理事長によるとうつ状態にある人が、サンドバッグを無心になってたたく、蹴るとそうした考えが薄れ、運動後には達成感や楽しい気分が残る。このとき脳ではドーパミンという脳内神経伝達物質が増えているという。

「ドーパミンは気分を爽快にし、意欲を高めます。楽しい気分や達成感が生じることで、この気分を味わいたいという欲求が湧き、動こうという意欲が出てくるのです」

最初はストレス解消程度と考えていたキックボクシングだったが、驚くべき効果に目を奪われた。それは次のとおり。

<1>充実感や達成感が得られること。楽しいので夢中になり、またトレーニングを重ねることで上達したという達成感が得られる。

<2>対人距離の保ち方がうまくなる。スパーリングなどがうまくなると対人関係の距離のとり方がわかり、実生活に生かすことができるようになる。相手が押せば引き、相手が引けば押すといったコツがつかめると対人関係の苦手さの克服につながる。

<3>度胸がつき、自信が湧くようになる。人は誰でも力の差があるものとは対決を避け、自分を抑える。キックボクシングで度胸がつくと、相手を過度に怖がることがなくなり、自分を出せるようになる。

<4>ストレスを解消できる。サンドバッグでのトレーニングは小気味良く、爽快感を伴うことができる。

<5>居場所ができる。うつ病の人は、他人と比べて自分が劣っていると感じ、孤立していることが多い。他の患者と打ち解けることができ、自分の居場所を見つけることで1歩を踏み出せる。

<6>心的エネルギーを充足する。うつ状態になると心的エネルギーが切れて動けなくなる。こうした“ガス欠の車”がモチベーションを上げることで、心のエネルギーの回復につながる。