感染症に詳しい、河北総合病院(東京)血液内科副部長の若杉恵介氏(48)に、コロナ禍のこれまでを振り返ってもらった。同氏は、日本での感染が初確認された1月から「PCR検査」依存への問題、「院内感染」対策の盲点を指摘していました。

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さて、感染症というとだいたいは細菌かウイルスです。もちろん、いわゆるカビと呼ばれる真菌や寄生虫などの病原体もありますが…。

細菌で有名なのは、ブドウ球菌とか大腸菌があります。細菌は原核生物に属する微生物です。植物に近い性質を持つ細菌が多く、人間などの細胞との違いを攻撃する抗菌薬が、感染症を起こしたときに有効です。

抗菌薬のペニシリンは細菌にしかない細胞壁の合成を障害して、効果をあげます。医者としていやなものに、それらの抗菌薬が効きにくい「多剤耐性緑膿(りょくのう)菌」や「MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)」などが上がります。

ウイルスで有名なのは、インフルエンザウイルスです。ウイルスは生命活動をしていないので、実は生物ではありません。遺伝子物質とその周囲のタンパク質からなる感染性粒子です。人間や細菌などの細胞に入り込み、持っている遺伝子から必要なタンパク質を作り出し、次の感染性粒子を作り出します。何のためにそれを行うのかは不明ですが、とにかく「遺伝子」の究極目標は自分コピーを作り出すことなので、生命活動を有する生物として増えるか、それに寄生する感染粒子としてコピーするかは、もう太古の時に作られた仕組みなのだと思います。

ウイルスは単純な構造なのですが、種類は恐らく細菌よりも多いです。大きさもごく小さく普通の顕微鏡では見えません。感染者の唾液などを、ろ紙を使って処理しても感染する可能性があることから、液性病原体とも呼ばれていました。つまり水が通ればウイルスも通るのです。

ウイルスの治療薬はごく一部にしか存在しません。インフルエンザのタミフルもヘルペスウイルスのゾビラックスなどです。しかし、いずれも「何となく効いている」という程度。何となく増殖を抑えていると、人間の免疫がウイルスを抑えてくれる。つまりウイルスに対抗するには、免疫力がいちばん肝心なのです。

遺伝子物質の種類から、RNAウイルス(プラス鎖とマイナス鎖)とDNAウイルス(二重らせん)があります。コロナウイルスはその中のRNAウイルスで、プラス鎖に分類されます。

◆若杉恵介(わかすぎ・けいすけ)1971年(昭46)東京都生まれ。96年、東京医科大学医学部卒。病理診断学を研さん後、臨床医として血液内科・院内感染対策・総合診療に従事。各病院で院内感染管理医師を務める。今年3月から現職の河北総合病院血液内科副部長。趣味は喫茶店巡りと古文書収集。特技はデジタル機器修理。