感染症に詳しい、河北総合病院(東京)血液内科副部長の若杉恵介氏(48)に、コロナ禍のこれまでを振り返ってもらった。同氏は、日本での感染が初確認された1月から「PCR検査」依存への問題、「院内感染」対策の盲点を指摘していました。

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ちょっと難しい話になるかもしれませんが、遺伝子物質にはDNAとRNAがあります。DNAは遺伝情報(主にタンパク質)を情報として記録しています。DNAは二重らせん体を取り安定性も高いです。基本的には生命は必ずDNAを使っています。

RNAはDNAからの遺伝子情報から作られて、リボソームという酵素を使って遺伝情報から活性タンパク質を作り出す伝達物質です。RNAは非常に不安定で、すぐに壊れます。その方が、作るタンパク質の制御に都合がいいからだと思います。

というわけで、DNAを使ったウイルスは非常に安定性が高いです。ただし増殖はそこまで早くありません。遺伝子の変異も少なく1回かかると免疫を得られますが、体内のDNAに組み込まれると、持続感染してしまうという特性があります。

RNAを用いたウイルスは2種類あります。遺伝子情報がそのまま解読できる「プラス鎖」と、遺伝子情報の裏情報が乗っている「マイナス鎖」のRNAウイルスです。

進化の歴史上、遺伝子情報がそのまま解読できるプラス鎖のウイルスが先に誕生したと思います。構造上、比較的単純です。コロナウイルスはこのプラス鎖RNAウイルスに属します。仲間には風疹ウイルスがいます。

マイナス鎖は、そのままでは遺伝子情報が翻訳できないので、RNAポリメラーゼというRNAから、RNAの逆コピーをする酵素を持っています。なぜそうなったかは誰もわかりませんが、おそらくはプラス鎖1本で頑張るよりは、マイナス鎖を送り込んでコピーのプラス鎖を大量に作る方が有利な状況ができたのだと思われます。ウイルスは利用する生物に合わせてプログラムを改良していくのです。

我々を毎年悩ませるインフルエンザウイルスは、このマイナス鎖RNAウイルスです。しかも8本の遺伝子分節を持っています。このマイナス鎖RNAウイルス多分節型は、最新型改良型なのだと思います。変異が多く人間の免疫を逃れる組み替えがしやすくなるからだと思われます。コロナウイルスは、やや旧型に属すると考えていいでしょう。

◆若杉恵介(わかすぎ・けいすけ)1971年(昭46)東京都生まれ。96年、東京医科大学医学部卒。病理診断学を研さん後、臨床医として血液内科・院内感染対策・総合診療に従事。各病院で院内感染管理医師を務める。今年3月から現職の河北総合病院血液内科副部長。趣味は喫茶店巡りと古文書収集。特技はデジタル機器修理。