感染症に詳しい、河北総合病院(東京)血液内科副部長の若杉恵介氏(48)に、コロナ禍のこれまでを振り返ってもらった。同氏は、日本での感染が初確認された1月から「PCR検査」依存への問題、「院内感染」対策の盲点を指摘していました。

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4種類のコロナウイルスが、季節性として知られています。「NL63」「OC43」「HKU1」「229E」と呼ばれるものです。4種を総称して「common HCoV:cHCoV」(ヒトコロナウイルス)とも呼ばれます。実際には、そのほかの季節性コロナウイルスも、まだいるかもしれません。「OC43」と「229E」は1960年代に確認されましたが、「NL63」も「HKU1」も2000年以降に発見された経緯があります。

これらは、だいたい冬の時期(インフルエンザの少し前あたり)に流行します。ただし夏の時期にも冬の10分の1程度検出されるとのことです。主に米国のデータですが、インフルエンザと同様にコロナも毎年流行パターンが異なります。「OC43」が優位の年や「NL63」と「229E」が同じくらい流行する年があったりします。

ほとんどが子どもから検出されます。大人からはよほどのことがない限り検査されず、実態はわかりません。ですが、海外PCRの結果からは大人もかかることがわかっています。

これら「cHCoV」はヒトに感染しても、それほど重篤な症状を起こすことなく、次のヒトに伝搬して脈々と生き残り市中感染しているということです。推測ですが、人口の数%程度が1シーズンに暴露されていると予想されています。

考察が飛躍しますが、「cHCoV」は1回の感染では完全な免疫はつかず、繰り返し再感染をします。数回の感染を経て粘膜免疫をはじめ体内免疫のシステムが構築されると思われます。ただし粘膜免疫はある一定の期間で低下するため、粘膜はおかされますが、体内への侵入は阻止できるという仕組みのようです。

この中で「cHCoV」「OC43」は、やや注目されます。「SARS CoV」(重症急性呼吸器症候群のコロナウイルス)も今回の「SARS CoV2(新型コロナウイルス)」も、同じ人体にある「ACE2」をターゲットとして感染します。分類としても同じベータコロナウイルス属です。「SARS CoV」感染の回復者で「OC43」の抗体価が高かった人が検出されました。「交差抗原性」(ウイルスのタンパク質の化学構造に類似する物質との誤った結合)か? それとも「OC43」に最近罹(かか)ったから免疫があったのかは、謎ですが…。

◆若杉恵介(わかすぎ・けいすけ)1971年(昭46)東京都生まれ。96年、東京医科大学医学部卒。病理診断学を研さん後、臨床医として血液内科・院内感染対策・総合診療に従事。各病院で院内感染管理医師を務める。今年3月から現職の河北総合病院血液内科副部長。趣味は喫茶店巡りと古文書収集。特技はデジタル機器修理。